横浜HARTクリニック

〒221-0835 神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町3-32-13 第2安田ビル7階

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公式LINE、youtubeチャンネルの開設

<公式LINEについて>

この度、当クリニックでは、皆様の個々の不安や疑問点を少しでも解決したいという思いから、多くの方が利用されているツールで個別対応できるよう「公式LINEアカウント」を新規開設いたしました。
(LINEにて個人情報を収集することはございませんので、ご安心ください)

 

現在、他院へ通院中の方でもセカンドオピニオンとしてご活用いただけます。また、ご質問等もLINEのチャットでお受けしております。ただし、チャットの返答には1-2日ほどお時間を要する場合もございます。あらかじめご了承ください。

※プライバシー保護には細心の注意を払いながら、公式LINEを運用してまいります。

 

また、公式LINEのメニューには

・無料セミナーのご案内

・無料オンライン個別相談

・初診のお問い合わせ

・ご通院中の方のお問い合せ(次回の来院予約、質問など)

 

のボタンを設定しておりますので、こちらも合わせてご利用ください。

 

<公式youtubeチャンネルについて>

少しでも皆様の治療のお役に立ちたいと思い、youtubeチャンネルを開設いたしました。
ホームページ内にあります「このような方がご通院されています〜当院だからこそ出来ること〜」の8つの項目を、さらに詳しくご紹介しています。
宜しければ、ぜひご覧ください。

niPGT-A (niPER) について

皆さん、こんにちは。

 

今回は、HP およびインスタグラムでご案内しています、非侵襲的な着床前胚の染色体検査(niPGT-A)についてお話しします。

 

この方法は、受精卵(胚)から細胞を取るのではなく、その胚を培養した培養液を用いて、染色体の数的異常がないかどうかを調べ る方法です(当院 HP、niPER (niPGT) 参照)。染色体の本数が正常であるかどうかをスコアで表して、移植する胚の順位をつけるという点から、当院では「移植胚の着床能優先順位づけ(niPER)」とも呼んでいますが、niPGT-A と同じです。

 

当院では、治療経験のある方が多いのですが、流産経験のある方、年齢の高い方、の割合も高くなっています。最近、産科へ転院された方々から、その後、非侵襲的出生前検査(NIPT) を受けたというお話を伺う度に、妊娠成立後もずっと心配していらしたのだなあ、と申し訳ない気持ちでした。

 

その不安を軽減できるようにと、当院では niPGT-A へ向けて準備をしてきました。様々なグレードの胚(胚盤胞)について、胚全体の結果と培養液による検査結果は100%一致し、本法が信頼できるものであると判断しています。大切なのは、培養液に不純なDNAが混入しないよう細心の注意を払うなど、通常の培養業務とは異なる分子生物学的な知識と技術が必要になることです。施設によるこの差が、本法が不安定であると言われる要因だと考えています。この点については、私(後藤)の分子生物学的研究者としての背景から、非常に高い精度の結果を保証いたします。

 

niPGT は着床や、流産しないことを保証するものではありませんが、少しでも安心して妊娠に臨んでいただくことができると思います。また、複数の採卵によって胚を貯める場合にも、どの胚から移植するかを考える上で役立てていただけます。

皆さまへ、ご一読いただければ幸いです

皆さま、こんにちは。だんだんに日が伸びて少しずつ春の気配を感じるようになりました。

 

開院から9年半、皆さまに「寄り添う」ということをずっと言い続けてきました。以前のブログやHP等でも何度かそのことに触れてきました。しかし、あらためてこれまでの人生や院長としての月日を振り返ってみると、患者さんに限らず、スタッフや周囲の方々に対しても本当に心から寄り添えていただろうか、と不安になることがあります。患者さんが転院されたり、スタッフが退職したりした経緯を一つひとつ思い返してみると、患者さんの気持ちや置かれた環境を理解せず、自分の価値観を押し付けていたのではないだろうか。もっと相手の立場に立って話を聞くべきだった、聞いていたら違った結果になったのではないか、と思われることが多々あります。以前に「裸の王様」だといわれたことがありますが、そうなのかもしれません。着床前診断(PGT-A)や付加的検査(add-ons)について消極的な意見を書いたりしたことも、一個人の意見としてなら許されるかもしれませんが、不妊で悩む患者さんを前にして、医療従事者、一クリニックの院長の発言としては適切ではなかったと思われますし、気を悪くされた方もいらっしゃったかと思います。お詫び申し上げます。自分の経験から、患者さんに妊娠していただくためにベストな方法をお示ししたいという思いは誰にも負けないつもりですし、経験に基づいてご提案をしているのですが、独りよがりだったのかもしれません。

 

「シンプルで医学的に効果の証明された治療を」とも言っています。これも、皆さまの妊娠を願う切な思いを汲んでいないのかもしれません。治療が思うように進まないときに、少しでも原因を知る可能性があるならできる検査をしてみたいと思われるでしょうし、納得してその後の治療を考えることもできるでしょう。卵巣刺激にしても、高刺激を第一選択にしていますが、低刺激や中刺激をトライしてみることもありですよね。トライしてみてその結果で判断すればよいことです。寄り添うと言いながら、皆さまに窮屈な思いをさせてしまったのかもしれません。ブレないという意味をはき違えていたのでしょう。見た目の方法ではなく、その患者さんにとって何がベストかを思い、その方の希望をお聞きして、常に一緒に考える、その姿勢がブレないこと、寄り添うことですね。思いが至らず申し訳ありません。

 

医師としてもっと人と社会の役に立ちたい、これまで培った経験をひとりでも多くの方に役立てたい、と日々思っています。ずっと前のブログに、今では死語のような「滅私奉公」の気持ちで仕事をしたいということを書きました。その気持ちは今も変わりませんが、今の私は単に「頑固」になってしまっていたのかもしれません。古い価値観に縛られて、皆さんの気持ちから離れてしまい、また「裸の王様」になってしまいつつあったのかもしれません。

 

今一度、自身の驕りを反省し、「人として」、「医師として」原点に戻り、初心に返って、患者さんと向き合い、横浜HARTクリニックのスタッフと共にベストな治療をさせていただけるよう努力致します。横浜HARTクリニックを選んでよかったと言っていただけるよう精進して参ります。

患者さんからのメッセージ 

今回初めて、患者さんからのメッセージを掲載させていただきます。

先日、当院のInstagramへ、以前当院にご通院されていた方よりメッセージをいただきました。

今まで、患者さんからのお声やメッセージは公表しておりませんでしたが、今回はご本人様の承諾を得て、掲載を決めました。

今、治療を受けている方々。

そして、生殖医療に携わる医療従事者の方へ、ぜひお読みいただきたかったからです。

 

患者さんからの真摯なメッセージ、ぜひ心に留めていただきたく思います。

 

(以下、原文です)

後藤先生、平良さん、スタッフの皆様、お変わりなくお元気でしょうか?インスタで先生方のお姿を見て、懐かしく思い、何だか嬉しくなりました。

このメッセージを、送るかとても迷ったのですが、私の現在について、簡単にですが、先生方にお伝えしたくて送らせてもらうことにしました。突然のことを、お詫びします。

まずはじめに、私は横浜ハートにとても感謝しています。それが大前提でこのメッセージを書いています。

私は第二子妊娠中〜出産後〜現在、ずっと体調が悪く、今年2月に、早発性卵巣不全、早期更年期障害と診断され現在も婦人科に通っています。育休中だった仕事は、辞めることにしました。

不妊治療をされる方々には、私のように、もともと卵巣機能が弱かったり、何かしらの問題がある方もいらっしゃると思います。妊娠、出産、子育ては、それだけでとても大変なことです。そこに、女性ホルモンが正常に動かないとなると、とてもとても大変なんだと思います。私がそうでしたし、今も苦しんでいます。体調不良の原因が婦人科疾患と気づくまでに、第二子出産後から1年半かかりました。(女性ホルモンがすべての原因とは思いませんが、大きな部分を占めていると思います。)

私は今、とても幸せですが、日々の体調不良は大変ですし辛いです。私のような思いをする方は、一人でも少ない方が良いと心から願います。もし誰かが、もっと早く、「女性ホルモン調べてみたら?」と教えてくれていたら……という思いは、心の何処かにあります。

横浜ハートに産後ケアまで求めるのは、お門違いなのは重々承知しています。でも、もしたしたら横浜ハートなら、患者さんの人生に寄り添ってくれるのではないか?私の今までの辛さが、何かの役に立てるのではないだろうか?そんな、小さな期待を捨てきれず、送らせてもらいました。

これを読んで、面倒に感じたり疎ましく思われましたら、読み捨ててくださって構いません。申し訳ありません。

希望あふれる妊娠の前に、辛い現実を伝えるのは、もしかしたら不要なのかもしれません。しかし、不妊治療という、ある意味、現実を捻じ曲げての妊娠というのは、それだけリスキーなのだと、私は今更ながら感じていますし、治療を受ける方々は知っておいて損はないように思います。

繰り返しになりますが、横浜ハートに通院できたこと、子どもを二人授かり今幸せなこと、横浜ハートには感謝しかありませんし、自信をもって周りに勧められます。

何だか支離滅裂な、的を得ない文章で申し訳ありません。お忙しいなか、読んでくださり、ありがとうございました。

 

 

以上がいただいたメッセージです。本当にありがとうございました。

当院の待合室に掲げている診療理念8項目の1番目は「ご夫婦と子供達のために最善を尽くします」です。

私たちクリニックスタッフが関わるのは妊娠初期までです。

出産後に「出産報告書」という書類をいただき、その際に皆様からメッセージをいただくのですが、その書類だけでは書き表せない、様々な想いや現状があることを今回改めて考えさせられました。

 

このたびお送りいただきましたメッセージ、大切にいたします。

改めて心より感謝申し上げます。

 

看護師長  平良

ご挨拶と皆様へのメッセージ

皆さん、こんにちは。

2023年もあと3日になりました。今年、当院にご通院いただいた方、お問い合わせいただいた方、凍結受精卵の保存期間延長手続きをいただいた方、元気な顔を見せにクリニックにお寄りいただいた方、皆さんありがとうございました。スタッフ一同、心から感謝申し上げます。

 

私達、横浜HARTクリニックは来年10周年を迎えます。この10年間には、当然のことながらさまざまなことがありました。その中で私たちが10年間変わらず守り続けてきたことがあります。それは、患者さん一人ひとりと本気で向き合い、一緒に考え苦しんで、最善の解決策を見出すことです。患者さんの思いや心の揺らぎを尊重し、今何が出来るかをリアルタイムに考える。物言わぬ卵子、精子、受精卵に思いを馳せて、1%でも妊娠の可能性を上げる努力、手間を惜しまない。そういう治療体験を提供し続けてきました。患者さんに治療を無理強いすることなく、また患者さんがエビデンスの無い情報に振り回されて疲れたり、治療をあきらめてしまったりすることの無いよう、十分な時間を取って治療を進めるにはどうしても自費診療でなければならないのです。

 

横浜HARTクリニックが誇る妊娠率の高さには理由があります。①看護力、②卵巣刺激、③顕微授精、④胚移植です。

 

①看護力は、看護師長平良さんの人間力です。治療を通して皆さんを本気で受け止めてくれます。医療スタッフは患者さんを患者さんとして対応しがちですが、どちらも同じ人間です。ただ、たまたまスタッフ、患者さんという役割が違うだけなのです。特に不妊治療では、身体的な負担だけではなく、精神的な負担や、配偶者、親との関係など、さまざまなことが関与していて、それを話せる存在が看護師なのです。ですから、信頼できるクリニックには、しっかりとした看護力が欠かせません(インスタグラムに平良さんからの動画メッセージがありますのでご覧ください。またジネコにインタビュー記事がありますので、そちらもご覧ください)。

 

②卵巣刺激は、医学的根拠に基づいて、そして安全に行わなければ効果がありません。卵巣予備能力が平均的な(AMHの数値が低過ぎない)方には、低刺激や中刺激ではなく高刺激が有効です。OHSSに注意しながらも、できるだけ1回の採卵で結果が得られるように刺激法を選択しています。

 

③顕微授精は、当院では敢えてPIEZOを行っていません。通常の顕微授精の方が、精子を注入した際の卵細胞内カルシウム濃度の上昇が有効で、卵子の活性化がしっかりと起きるからです。したがって、人工的な卵子活性化をする必要がありません。一方、卵子が変性しないよう、PIEZOに比べれば技術が必要です。精子の選別には生理的な方法として、ヒアルロン酸に結合する精子を用いた PICSI を実施して効果を得ています。

 

④胚移植は卵巣刺激から始まる、採卵、媒精、培養、凍結、融解に至る集大成のステップです。肉眼では見えない胚を子宮の中にきちんと戻すことが全てです。お腹から超音波で確認しながら行うこともありますし、子宮後屈の方には、普段外来で診ている画像を記憶して、指先の感覚を頼りに行う(クリニカルタッチといいます)こともあります。また、子宮内膜に不妊原因がありそうな方には、テーラーメイドな準備を行います。

 

⑤もう一つ、当院では niPGT-A という着床前検査を行っています。私は、受精卵を傷つけること、ダウン症など特定の染色体異常を排除することに抵抗があるため、PGT-Aに積極的ではないと以前に書きました。しかし、胚に触れることなく、培養後の培養液を調べることで、ダウン症のように特定の染色体についての情報を得ることなく、染色体正常な胚を選べることからこの方法を用いています。これを非侵襲的(non-invasive、略して ni と書きます)PGT-A といい、私は個人的に niPER (移植胚優先順位付け)と呼んでいます。簡単そうに見えますが、TEバイオプシーよりもセンスと技術が必要です。

当院は、日本産科婦人科学会にPGT-A実施施設として登録はしていませんが、niPGT-AはPGT-Aとは全く別のものであり、遺伝学と着床前検査に30年以上の経験を持つ後藤が丁寧に説明致します(当院のインスタグラムもご参照ください)。

 

どんなに見た目がきれいな受精卵でも着床しないことはよくありますし、逆に難しいかなと思う受精卵が元気な赤ちゃんになることもあります。日々の臨床は教科書に書いてあるようにすんなりと進むのではありません。検査結果や数値にとらわれることなく、目の前の患者さんと受精卵を深く診て、自分たちの知識、経験と照らし合わせて、患者さんの希望も聞きながら、最大限の結果を生み出せるよう努力することが大切です。

 

良い卵と精子があれば何とかなります。私たちはずっと「最後の砦」になりたいという思いで診療してきました。横浜HARTでダメならあきらめると思っていただけるような治療を提供致しますので、真剣に苦しんでいらっしゃる方は、ぜひご相談ください。

 

保険診療による体外受精について

当院では、昨年4月の不妊治療への保険適応以降も、皆様には十分に時間をかけて説明し、シンプルかつ医学的根拠に基づいた治療を、安心して受けていただきたいという、開業当初からの診療理念に基づいて自費診療を行ってまいりました。

 

そして今もなお、自費診療を続けている最大の理由は、「お一人おひとりを大切にする」という思いです。

当院をお選びいただき、ご通院されている方は、転院して来られる方がほとんどで、転院理由としては、

 

「毎回数時間の待ち時間で治療自体が辛くなった」

「機械的な(ベルトコンベアにのせられているような)扱いをされてきた」

「医師・スタッフからの説明が非常に少なく、自分が一体何の治療をされているか分からない」

 

といったことをおっしゃいます。

 

検査の種類が多いから、スタッフが大勢いるから、治療周期数が多いから安心、という方たちばかりではないのです。

心から子供が欲しいと願うこの私を、他の誰でもない私として見て治療して欲しいという方たちが多くいらっしゃるのです。

 

当院は、スタッフは少数体制ですし、検査は医学的な根拠(エビデンス)があるシンプルなものだけ、年間治療周期数もそれほど多くはありません。

 

しかし、当院1回目の採卵もしくは1回目の移植での出産率は60%を超えています。他施設でうまくいかなかった方々であることを考えれば、かなり高い出産率です。

 

なぜ、シンプルな治療なのに出産率が高いのでしょうか。それは、

 

(1)  完全予約制のため、待ち時間がないこと

(2)  お一人(ご夫婦)あたり30分の診察時間枠をお取りしているため、疑問に思うことや不安なことを落ち着いて相談していただける環境があり、安心して通院できること

 

だと思います。治療行為とは直接関係がないけれども、通院を続ける上では大きなストレスになるものを取り除くことでリラックスでき、その方の本来の妊孕力(にんようりょく)を引き出し、高い出産率に表れるのだと感じています。

 

当院が大切にしている、患者さんと共有する時間は、自費診療でしか十分に取れないことは事実です。

診療内容や質、患者さんの満足度も自費診療は高く優れていると考えます。

 

 

 

しかしながら、「自費診療のみを行う」というクリニックの方針が、世情を含め、徐々に許されない状況になってきていると言わざるを得ません。

 

苦渋の決断ではございますが、院内での話し合いの末、この度、保険診療の運営も開始する運びとなりました。

 

開始にあたり、

 

(a) 体外受精(顕微授精)または人工授精の経験がある方で、

(b) 保険診療の範囲内で、有効かつ安全に治療が可能と判断される方

 

を対象とさせていただきます。

 

予約枠など自費診療の場合ほどには十分な時間をお取りできない場合がありますことをご了承ください。

 

横浜HARTクリニックの良さ、それは「技術」と「看護力」です。人を診る「心」です。はじめに書いたように「お一人おひとりを大切にする」思いです。

 

不妊治療は本来つらいものではありません。お悩みの方は、ぜひお問い合わせ下さい。

 

最後になりましたが、

 

(i) 昨年の4月以降も当院の治療方針をご理解いただき、自費で治療を受けていただいた方々、

(ii) 今現在ご通院いただいている方々

 

には、この場を借りて深く感謝申し上げます。

そして、クリニックの方針を一部変更する運びとなりましたことを心よりお詫び申し上げますとともに、ご理解いただきますようお願い申し上げます。

 

なお、(i)、(ii)の自費診療の方々に関しましては、それぞれの方の治療歴や検査所見を参考に、採卵周期では卵巣刺激に使用する注射薬の「量」、凍結胚移植周期では使用するホルモン剤の「種類」や「診察回数」において、保険診療の制約の中ではできない、最善の治療となるよう配慮させていただいていることを申し添えておきます。

 

2023年10月31日

院長 後藤哲也

キツネとの出会い

皆さん、こんにちは。

 

前回のブログ(2023年10月8日、「目に見えない大切なもの」)で、私たちが日々の診療の中で大切にしていることについて書きました。そして、それが単なるホスピタリティーではなく、実際に結果に結びつく、人を診る医療行為であることに触れました。

 

実は、「大切なものが目に見えない」ということを初めて意識したのは、小学生の時、皆さんも良くご存じの「星の王子さま」(サン=テグジュペリ作、内藤濯訳、岩波書店、1972年)を読んだ時です。第21章で王子さまは一匹のキツネと出会うのですが、キツネは孤独な王子さまに、ただの通りすがりの関係が世界中でかけがえのない存在になる<仲良くなる>ために必要なことを教えてくれます。時間を共有すること、お互いの距離間を大切にすること、ルールを決めて従うこと、そして仲良くなった後には責任が生じること。

 

さらに、キツネは王子さまと仲良くなったことで、今まで興味がなかった麦の金色の穂を見るたびに、王子さまの金色の髪を思い出して幸せな気持ちになれると言います。離れていてもずっと心の中にいて、その人を幸せにすることができるのですね。

 

王子さまが旅を続けるためにキツネと別れる時、キツネは王子さまに、おみやげとしてひとつの秘密を伝えます。「さっきの秘密をいおうかね。なに、なんでもないことだよ。心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」(原文のまま)。

 

今の時代に、こういったことはもう理想でしかないのかもしれません。でも、横浜HARTクリニックで、私たちが患者さんに体感していただきたいことは、上に書いた通りのことなのです。ご夫婦、ご家族がいつまでも幸せに、折に触れて横浜HARTを思い出していただいたときに温かい気持ちになっていただければ本望です。少しでも多くのご夫婦に私たちのことを知っていただきたいです。

目に見えない大切なもの

皆さん、こんにちは。

ようやく涼しくなってきましたね。過ごしやすくなりましたが、猛暑の疲れが出る時期でもあり、コロナに加えてインフルエンザも流行っていますので、引き続き体調には気を付けましょう。

 

開業時のHP(2014年、当時は文字が多い時代でした)のごあいさつに、「出産という結果につながっても、残念ながら出産という願いが叶わなくても、横浜HARTクリニックが最後のクリニックであって欲しいと思います」と書きました。この思いはもちろん今も変わりません。高い医療技術を提供するのはもちろんですが、それだけではなく、患者さん一人ひとりの気持ちを大切に、悔いのない治療を全力でサポートしたいという思いです。

 

当院を受診される方の多くは治療経験がおありです。以前にタイミング指導や人工授精を受けていたけれども諸事情で中断した方や、体外受精を何回もトライした方など。特に後者の方では、先進医療と呼ばれる検査や処置(ERA、タイムラプス、子宮内フローラ、2段階移植など)も一通りされていて、今後どうしていいかわからないという思いで受診されます。

 

そんな時、今更と思われるかもしれませんが、シンプルに基本に忠実な治療をご提案しています。何か特別なことをトライするわけではなく、一つ一つのステップを丁寧に確実に実施して、その足し算あるいは掛け算が結果につながるようにするのです。卵巣刺激は強すぎても弱すぎても良くありません。採卵は痛みなく安全に実施しなければいけません。媒精(授精)、胚の培養・凍結・融解では胚にできるだけストレスがかからないようにしなければなりません。胚移植は優しく短時間に行わなければいけません。子宮内膜の調整はその方に適した方法を選ばなくてはいけません。これらのどのステップも普段の診察の際にどれだけ集中して情報を集めるかにかかっています。

 

そのようなシンプルな治療方針が、転院前よりも良い結果につながる方が多いのは、得られる卵子の質が良いからで、その理由は私たちに対する「信頼」だと考えています。信頼は「安心感」につながり、安心して通うことは「ストレスの軽減」となり、緊張感が取れます。心身がリラックスすることで、血流を介して卵巣の緊張もほぐれ、良い卵子が得られるのではないでしょうか。信頼関係を築くためには時間を共有することです。お一人の予約枠に約30分の時間をお取りしているのもそのためです。さらに、診察の都度、「いくらかかるのだろう」という費用の不安をなくすため、定額費用を導入しています。

 

先日、ESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)から、「付加的な検査、処置(add-ons)」についてのレビューが発表されました。タイムラプス、SEET法、子宮内膜スクラッチ、PGT-Aなど42項目について検討した結果、1項目(ヒアルロン酸入りの胚移植培養液)を除いて、全てその有効性、安全性に関するデータが不充分なため実施を推奨しないと結論しています。また同じくESHREからの、原因不明不妊症についてのガイドラインでは、心理学的なサポートを有効であると強く推奨しています。

 

私たちは、何もやっていないのではなくて、目に見えない大切なものを心を込めて提供しているのです。初診から終診までを通じた「治療体験」として提供します。それが妊娠の可能性を高めると信じているからです。「不妊治療なんてこんなもの」とあきらめている方はぜひ一度ご相談ください。一緒に可能性を考えてみましょう。

ARTの行く末

今、一番危惧していることを書きます。

不妊治療業界の大きな変化です。

 

以前と大きく異なったことは、最近だと不妊治療の保険診療、それに伴う助成金廃止(一部自治体を除く)です。

3割負担で治療が受けられるようになり、自費診療と比べると価格を抑えて治療が可能になりました。

しかし反対に、助成金が廃止になったことで、かえって自己負担が増えた方。

また、保険診療がメインとなったことで、各ART施設の差(個性)が分かりづらくなり、どこを受診したら良いか悩む方が多いようです。

以前(不妊治療が自費診療だった頃)は、各施設が、自分たちが主力となるものをHPに掲げ、それを見て患者さんも「ここにしようかな」と施設選びをしていました。

おそらく施設間においても切磋琢磨し、なんとか患者さんに来て頂こうとお互いに努力していたように思います。

 

今は保険診療が前提として、医療ではない部分でのサービス競争が激しいように感じます。

例えば、早朝から、或いは夜遅くまでの診察、診療曜日の拡大、SNS、無料相談や施設見学の更なるサービス拡充 などでしょうか。

他の診療科(内科や外科など)と比べると、保険診療とは思えないほどの手厚いサービスばかりです。

保険診療( = 不妊は病気 )と認められたからには、他の診療科と同じように診療を受けるのが通常で、

患者さんもそれ以上サービスを求めてはいけない、ということになります。

 

逆を申しますと、ARTは、ここまでサービスを広げなければならない状況下にあるということです。

自費診療  → 保険診療の流れから、自費診療の感覚のまま保険診療が行われている感じでしょうか。

 

施設側は、一旦サービスを拡大してしまうと、それを維持し続けなければなりません。

過剰なサービスではなく、本来の自分たちの行なっている医療の質を周知・理解してもらい、患者さんに来ていただきたいものです。

施設側、そして患者さん側それぞれが冷静になり、本来の形を取り戻すべきだと思います。

 

この先、サービス合戦のART業界はどこに進んでいくのか、不安です。

これから治療を考えている方は、施設を選ぶ際、目先の情報や損得だけでなく、自分たちの治療において何が大事かをよく考えることが必要だと思います。

 

 

看護師長  平良

 

 

開院9周年を迎えました

皆さん、こんにちは。暑いですね。

 

今月7日、開院9周年を迎えました。ご通院いただいた方々には心より感謝申し上げます。また、日々の診療を支えていただいた関係者の方々にも厚くお礼申しあげます。

 

振り返れば、当然のことながら様々なことがありましたが、直近ではやはり卵子提供と体外受精の保険適用でしょうか。卵子提供は私達自らトライしたことであり、保険適用は期せずして生じた変化です。

 

卵子提供は、約2年にわたって、誠実にこつこつと取り組んだプログラムです。平良看護師長にはコーディネーターとして本当に根気強く頑張ってもらいました。日本国内で無償提供卵子による不妊治療が根付くかどうかを念頭に臨んだ取り組みでしたが、多くのドナーおよびレシピエント希望の方達とかかわる中で、さまざまな課題や問題点が浮き彫りになり、検討の末、今年初めに当院での卵子提供プログラムを終了することとしました。このことについては、今年5月29日付の平良看護師長のブログに詳しく記されていますのでご参照ください。

 

次いで、2022年4月からの体外受精への保険適用についてです。この件に関しては、私の考えをいろいろなところに書いてきました。保険診療を行うか、自費診療を継続するか、思案して院内で検討した結果、自費診療のみを選択して、今日まできました。その理由としては大きく2つあります。

 

1つ目は、不妊治療、特に体外受精を単に技術的な治療とは考えていないということです。採卵して、受精卵を移植すればよいというわけではなくて、不妊というクライシスに直面したご夫婦をトータルにサポートしたいと考えているからです。きちんと話を聞き、可能な限り不妊の原因を推測して説明する。そして、その原因に対してどんな治療法があるか(ないか)を一緒に考えていただく。十分に納得していただいた上で治療を始めていただくようにしています。このプロセスは、治療を継続するうえでとても重要で、時間を要するものです。保険診療では、この点が考慮されていないのです。

 

2つ目は、不妊の原因が卵子にある方が多いことです。すなわち、どの生理周期でも良い卵子が育つとは限らないのです。従って、採卵周期に選んだ生理周期にこそ貴重な良い卵子が育つかもしれないと思えば、保険診療の制約(超音波の回数や使用できる薬剤)があってはベストな治療が行えない可能性が出てきます。もちろん結果を確約はできませんが、それでも上記1つ目のプロセスで培った安心感の中でお互いに悔いのない治療行うことに意味があると思っています。

 

卵子提供にしても、自費診療にしても、いつも正しいことを行いたいと思ってやってきました。医学的にはもちろんのこと、倫理的にも、社会的にも、他の人から見て正しいと判断されるような診療を心がけてきました。治療に望むご夫婦と生まれてくる子供たちが幸せになれるよう、お手伝いを続けられたらなあ、と心から思います。時代が変わっても、この思いは変わりません。

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