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受精卵(胚)の選択について

皆さん、こんにちは。今年ももう3月に入りました。花粉症もそろそろピークを迎えるころで、つらい方も多いでしょうね。治療中も、妊娠がわかるまでは薬を飲んでいてもかまいませんので、頑張って乗り切りましょう(私も花粉症です)。

さて、今日は受精卵(胚)の選択についてお話しします。

そもそも、なぜ胚を「選択」しなければいけないのでしょうか?

自然妊娠の場合には、胚を体外で目にすることはないわけですから、胚を人為的に選択することはありません。体外受精をするから胚を見ることになるわけです。さらに、自然周期で採卵をする場合、採取できる卵子は原則1個ですから、受精卵も1個、選択する必要はありません。

つまり、刺激周期で複数の卵子を採取し、複数の胚が得られるために、選択の必要が生まれるわけです。

一番古典的で今でも一般的な選択方法は、胚の形態(見た目の評価)です。いわゆるグレードです。採卵から3日目までは、〇分割、フラグメント△%、というような項目を評価して総合的にグレードをつけます。採卵から4日目では桑実胚、5日目以降では胚盤胞と呼ばれるステージに入るため評価法が変わりますが、やはりグレードをつけることができます。

グレードが良い方が着床率は高いですが、妊娠、出産を保証するものではありませんし、流産を防げるものでもありません。また、グレードが低いと生まれてくる赤ちゃんにも影響するのではないかと心配される方がいらっしゃいますが、赤ちゃんの健康状態を予測するものでもありません。

1990年代から遺伝子解析、解読の技術が進み、さらに1個の細胞に含まれるDNAを増幅する技術が開発され、胚の着床前診断(preimplantation genetic diagnosis, PGD)、着床前スクリーニング(preimplantation genetic screening, PGS)が可能になりました。1993年に私がアメリカでPGDの研究をしていた頃には、男女や限られた遺伝病しか診断できませんでしたが、今では染色体の数や構造の異常にとどまらず、胚(1個人)の遺伝子情報の全てを知ることができるようになりました。

このように、複数の胚があれば必ず何らかの選択が必要になり、「命の選別」という点では変わりありません。形態学的(見た目の)評価、すなわちグレードによる評価が問題視されず PGS が問題視されるのは、PGSでは具体的な染色体異常、特に13番、18番、21番、を持つ胚を排除するからです。不妊治療の目的が、染色体異常を持たない赤ちゃんを産むことであれば PGS は必要でしょうし、そうでなければ PGS は不要でしょう。その他、PGS の目的に流産を繰り返さないためという理由もありますが、その有効性については対象になる方の背景によります。

私自身も今後PGSを行うかどうか気持ちが揺れています。形態的(見ための)評価では「胚」の選択という名のもとにあまり意識されない「命の」選択を PGS では意識させられることになります。さらに、その胚の全ての遺伝情報を手にすれば、将来の健康状態、寿命、癌になる確率など、知りたくないかもしれない個人情報を、本来の遺伝子(遺伝情報)所有者である胚の許可なく第3者である私たちが知ることになり、命だけでなく生まれてくる子供の「人生」まで選択することになりかねません。

子供を持ちたいという基本的な願いを叶えることは、できるだけシンプルな方がいいですね。

追記:ご存じかもしれませんが、PGS の元になった PGD の起源について記しておきます。重度または致死的な遺伝病のために出生後苦しんだ末に亡くなる子供を産みたくない、かつ妊娠後に診断されても宗教上の理由で中絶できない女性に対して、PGD は考案されました。つまり、不妊ではない夫婦に対して、受精卵診断するために体外受精を用いたわけです。したがって、不妊治療の一部として行われる PGS とはコンセプトが異なります。

記事監修
院長 後藤 哲也
経歴

東京大学医学部卒業

産婦人科研修医(東大附属病院分院、都立築地産院、国立習志野病院)

アメリカウィスコンシン大学高度生殖医療施設

イギリスロンドン大学大学院  医学博士(生殖遺伝学)

オーストラリアモナッシュ大学体外受精施設

東京HARTクリニック副院長
横浜HARTクリニック開業

資格

日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医

日本生殖医学会認定生殖医療専門医

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