横浜HARTクリニック

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雑感

先日、「The End of Sex」(H. T. Greely 著、Harvard Univ. Press)という本を読みました。タイトルの通り、ヒトの生殖が近い将来、性交によってではなく、体外での受精によって行われるようになるという内容です。これは不妊治療をしている方に限りません。まず、夫婦の iPS 細胞を作り、そのiPS 細胞から卵子と精子を作って(体外)受精させ、できた受精卵を女性の子宮に戻します。不妊治療をされている女性にとっては採卵をせずに済むので、負担が減り良いことかもしれません。現行の採卵方法では、刺激周期でも1回の採卵で10個程度の卵子しか採取できませんが、iPS 細胞からは限りなく卵子を作成できるはずなので、着床能力のある受精卵が得られる可能性、すなわち妊娠の可能性が高まると書かれています。さらに、着床前診断/スクリーニング(PGD/PGS)を行えば、多くの受精卵の中から希望の性質を持つ受精卵を選ぶこともできます。確かに技術的にはこのようなことが可能な時期に来ていると思われますが、果たして20年後はどうなっているでしょうか?

実は、同じようなシナリオは Aldous Huxley の古典「Brave New World」に書かれています。こちらの本に書かれた世界では、人々は「通常」体外受精によって子供を作り、一部の「特別」な人たちが性交によって子供を産みます。そして人々はバーチャルな世界に娯楽を求め、五感による現実世界の娯楽はつまらないものとして描かれています。驚くべきことは、この本が80年以上も前、1932年に出版されたことです。

私自身は、生殖行為は自然(宗教を持つ方にとっては神?)の「壮大な実験」であり、必要以上に人の手を加えるべきではないと考えています。精子や卵子が作られる際には、両親から受け継いだ染色体ペアの間で遺伝子の組み換えが行われ(減数分裂、相同組み換え)、その結果できた1個1個の卵子、精子が持つ遺伝子は全て組み合わせが異なります。約30,000個の遺伝子があると言われていますから、その組み合わせはほぼ無限です。敢えて DNA の鎖を切るようなリスクを冒してまで遺伝子の組み換えを行う理由の一つは、やはり種としての多様性を生み出すことでしょう。様々な未知の環境、病気に耐える性質を持つ個体を生みだすことが種の保存につながります。ヒトが現時点で希望する性質を持つ子孫だけを残していくのは非常に危険です。何が有利で何が不利かは時代や社会環境によって異なります。理想は、「壮大な実験」の結果を全て「個性」として受け入れていけるように社会が意識し成熟することではないでしょうか。

記事監修
院長 後藤 哲也
経歴

東京大学医学部卒業

産婦人科研修医(東大附属病院分院、都立築地産院、国立習志野病院)

アメリカウィスコンシン大学高度生殖医療施設

イギリスロンドン大学大学院  医学博士(生殖遺伝学)

オーストラリアモナッシュ大学体外受精施設

東京HARTクリニック副院長
横浜HARTクリニック開業

資格

日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医

日本生殖医学会認定生殖医療専門医

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