横浜HARTクリニック

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保険診療による体外受精について

当院では、昨年4月の不妊治療への保険適応以降も、皆様には十分に時間をかけて説明し、シンプルかつ医学的根拠に基づいた治療を、安心して受けていただきたいという、開業当初からの診療理念に基づいて自費診療を行ってまいりました。

 

そして今もなお、自費診療を続けている最大の理由は、「お一人おひとりを大切にする」という思いです。

当院をお選びいただき、ご通院されている方は、転院して来られる方がほとんどで、転院理由としては、

 

「毎回数時間の待ち時間で治療自体が辛くなった」

「機械的な(ベルトコンベアにのせられているような)扱いをされてきた」

「医師・スタッフからの説明が非常に少なく、自分が一体何の治療をされているか分からない」

 

といったことをおっしゃいます。

 

検査の種類が多いから、スタッフが大勢いるから、治療周期数が多いから安心、という方たちばかりではないのです。

心から子供が欲しいと願うこの私を、他の誰でもない私として見て治療して欲しいという方たちが多くいらっしゃるのです。

 

当院は、スタッフは少数体制ですし、検査は医学的な根拠(エビデンス)があるシンプルなものだけ、年間治療周期数もそれほど多くはありません。

 

しかし、当院1回目の採卵もしくは1回目の移植での出産率は60%を超えています。他施設でうまくいかなかった方々であることを考えれば、かなり高い出産率です。

 

なぜ、シンプルな治療なのに出産率が高いのでしょうか。それは、

 

(1)  完全予約制のため、待ち時間がないこと

(2)  お一人(ご夫婦)あたり30分の診察時間枠をお取りしているため、疑問に思うことや不安なことを落ち着いて相談していただける環境があり、安心して通院できること

 

だと思います。治療行為とは直接関係がないけれども、通院を続ける上では大きなストレスになるものを取り除くことでリラックスでき、その方の本来の妊孕力(にんようりょく)を引き出し、高い出産率に表れるのだと感じています。

 

当院が大切にしている、患者さんと共有する時間は、自費診療でしか十分に取れないことは事実です。

診療内容や質、患者さんの満足度も自費診療は高く優れていると考えます。

 

 

 

しかしながら、「自費診療のみを行う」というクリニックの方針が、世情を含め、徐々に許されない状況になってきていると言わざるを得ません。

 

苦渋の決断ではございますが、院内での話し合いの末、この度、保険診療の運営も開始する運びとなりました。

 

開始にあたり、

 

(a) 体外受精(顕微授精)または人工授精の経験がある方で、

(b) 保険診療の範囲内で、有効かつ安全に治療が可能と判断される方

 

を対象とさせていただき、さらに当院で定めるいくつかの条件に当てはまる方とさせていただきます。詳細は必ずホームページ、「初診の方へ」をご確認下さい。

 

予約枠など自費診療の方を優先させていただきますので、自費診療の場合ほどには十分な時間をお取りできないことをご了承ください。

 

横浜HARTクリニックの良さ、それは「技術」と「看護力」です。人を診る「心」です。はじめに書いたように「お一人おひとりを大切にする」思いです。

 

不妊治療は本来つらいものではありません。お悩みの方は、ぜひお問い合わせ下さい。

 

最後になりましたが、

 

(i) 昨年の4月以降も当院の治療方針をご理解いただき、自費で治療を受けていただいた方々、

(ii) 今現在ご通院いただいている方々

 

には、この場を借りて深く感謝申し上げます。

そして、クリニックの方針を一部変更する運びとなりましたことを心よりお詫び申し上げますとともに、ご理解いただきますようお願い申し上げます。

 

なお、(i)、(ii)の自費診療の方々に関しましては、それぞれの方の治療歴や検査所見を参考に、採卵周期では卵巣刺激に使用する注射薬の「量」、凍結胚移植周期では使用するホルモン剤の「種類」や「診察回数」において、保険診療の制約の中ではできない、最善の治療となるよう配慮させていただいていることを申し添えておきます。

 

2023年10月31日

院長 後藤哲也

キツネとの出会い

皆さん、こんにちは。

 

前回のブログ(2023年10月8日、「目に見えない大切なもの」)で、私たちが日々の診療の中で大切にしていることについて書きました。そして、それが単なるホスピタリティーではなく、実際に結果に結びつく、人を診る医療行為であることに触れました。

 

実は、「大切なものが目に見えない」ということを初めて意識したのは、小学生の時、皆さんも良くご存じの「星の王子さま」(サン=テグジュペリ作、内藤濯訳、岩波書店、1972年)を読んだ時です。第21章で王子さまは一匹のキツネと出会うのですが、キツネは孤独な王子さまに、ただの通りすがりの関係が世界中でかけがえのない存在になる<仲良くなる>ために必要なことを教えてくれます。時間を共有すること、お互いの距離間を大切にすること、ルールを決めて従うこと、そして仲良くなった後には責任が生じること。

 

さらに、キツネは王子さまと仲良くなったことで、今まで興味がなかった麦の金色の穂を見るたびに、王子さまの金色の髪を思い出して幸せな気持ちになれると言います。離れていてもずっと心の中にいて、その人を幸せにすることができるのですね。

 

王子さまが旅を続けるためにキツネと別れる時、キツネは王子さまに、おみやげとしてひとつの秘密を伝えます。「さっきの秘密をいおうかね。なに、なんでもないことだよ。心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」(原文のまま)。

 

今の時代に、こういったことはもう理想でしかないのかもしれません。でも、横浜HARTクリニックで、私たちが患者さんに体感していただきたいことは、上に書いた通りのことなのです。ご夫婦、ご家族がいつまでも幸せに、折に触れて横浜HARTを思い出していただいたときに温かい気持ちになっていただければ本望です。少しでも多くのご夫婦に私たちのことを知っていただきたいです。

目に見えない大切なもの

皆さん、こんにちは。

ようやく涼しくなってきましたね。過ごしやすくなりましたが、猛暑の疲れが出る時期でもあり、コロナに加えてインフルエンザも流行っていますので、引き続き体調には気を付けましょう。

 

開業時のHP(2014年、当時は文字が多い時代でした)のごあいさつに、「出産という結果につながっても、残念ながら出産という願いが叶わなくても、横浜HARTクリニックが最後のクリニックであって欲しいと思います」と書きました。この思いはもちろん今も変わりません。高い医療技術を提供するのはもちろんですが、それだけではなく、患者さん一人ひとりの気持ちを大切に、悔いのない治療を全力でサポートしたいという思いです。

 

当院を受診される方の多くは治療経験がおありです。以前にタイミング指導や人工授精を受けていたけれども諸事情で中断した方や、体外受精を何回もトライした方など。特に後者の方では、先進医療と呼ばれる検査や処置(ERA、タイムラプス、子宮内フローラ、2段階移植など)も一通りされていて、今後どうしていいかわからないという思いで受診されます。

 

そんな時、今更と思われるかもしれませんが、シンプルに基本に忠実な治療をご提案しています。何か特別なことをトライするわけではなく、一つ一つのステップを丁寧に確実に実施して、その足し算あるいは掛け算が結果につながるようにするのです。卵巣刺激は強すぎても弱すぎても良くありません。採卵は痛みなく安全に実施しなければいけません。媒精(授精)、胚の培養・凍結・融解では胚にできるだけストレスがかからないようにしなければなりません。胚移植は優しく短時間に行わなければいけません。子宮内膜の調整はその方に適した方法を選ばなくてはいけません。これらのどのステップも普段の診察の際にどれだけ集中して情報を集めるかにかかっています。

 

そのようなシンプルな治療方針が、転院前よりも良い結果につながる方が多いのは、得られる卵子の質が良いからで、その理由は私たちに対する「信頼」だと考えています。信頼は「安心感」につながり、安心して通うことは「ストレスの軽減」となり、緊張感が取れます。心身がリラックスすることで、血流を介して卵巣の緊張もほぐれ、良い卵子が得られるのではないでしょうか。信頼関係を築くためには時間を共有することです。お一人の予約枠に約30分の時間をお取りしているのもそのためです。さらに、診察の都度、「いくらかかるのだろう」という費用の不安をなくすため、定額費用を導入しています。

 

先日、ESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)から、「付加的な検査、処置(add-ons)」についてのレビューが発表されました。タイムラプス、SEET法、子宮内膜スクラッチ、PGT-Aなど42項目について検討した結果、1項目(ヒアルロン酸入りの胚移植培養液)を除いて、全てその有効性、安全性に関するデータが不充分なため実施を推奨しないと結論しています。また同じくESHREからの、原因不明不妊症についてのガイドラインでは、心理学的なサポートを有効であると強く推奨しています。

 

私たちは、何もやっていないのではなくて、目に見えない大切なものを心を込めて提供しているのです。初診から終診までを通じた「治療体験」として提供します。それが妊娠の可能性を高めると信じているからです。「不妊治療なんてこんなもの」とあきらめている方はぜひ一度ご相談ください。一緒に可能性を考えてみましょう。

ARTの行く末

今、一番危惧していることを書きます。

不妊治療業界の大きな変化です。

 

以前と大きく異なったことは、最近だと不妊治療の保険診療、それに伴う助成金廃止(一部自治体を除く)です。

3割負担で治療が受けられるようになり、自費診療と比べると価格を抑えて治療が可能になりました。

しかし反対に、助成金が廃止になったことで、かえって自己負担が増えた方。

また、保険診療がメインとなったことで、各ART施設の差(個性)が分かりづらくなり、どこを受診したら良いか悩む方が多いようです。

以前(不妊治療が自費診療だった頃)は、各施設が、自分たちが主力となるものをHPに掲げ、それを見て患者さんも「ここにしようかな」と施設選びをしていました。

おそらく施設間においても切磋琢磨し、なんとか患者さんに来て頂こうとお互いに努力していたように思います。

 

今は保険診療が前提として、医療ではない部分でのサービス競争が激しいように感じます。

例えば、早朝から、或いは夜遅くまでの診察、診療曜日の拡大、SNS、無料相談や施設見学の更なるサービス拡充 などでしょうか。

他の診療科(内科や外科など)と比べると、保険診療とは思えないほどの手厚いサービスばかりです。

保険診療( = 不妊は病気 )と認められたからには、他の診療科と同じように診療を受けるのが通常で、

患者さんもそれ以上サービスを求めてはいけない、ということになります。

 

逆を申しますと、ARTは、ここまでサービスを広げなければならない状況下にあるということです。

自費診療  → 保険診療の流れから、自費診療の感覚のまま保険診療が行われている感じでしょうか。

 

施設側は、一旦サービスを拡大してしまうと、それを維持し続けなければなりません。

過剰なサービスではなく、本来の自分たちの行なっている医療の質を周知・理解してもらい、患者さんに来ていただきたいものです。

施設側、そして患者さん側それぞれが冷静になり、本来の形を取り戻すべきだと思います。

 

この先、サービス合戦のART業界はどこに進んでいくのか、不安です。

これから治療を考えている方は、施設を選ぶ際、目先の情報や損得だけでなく、自分たちの治療において何が大事かをよく考えることが必要だと思います。

 

 

看護師長  平良

 

 

開院9周年を迎えました

皆さん、こんにちは。暑いですね。

 

今月7日、開院9周年を迎えました。ご通院いただいた方々には心より感謝申し上げます。また、日々の診療を支えていただいた関係者の方々にも厚くお礼申しあげます。

 

振り返れば、当然のことながら様々なことがありましたが、直近ではやはり卵子提供と体外受精の保険適用でしょうか。卵子提供は私達自らトライしたことであり、保険適用は期せずして生じた変化です。

 

卵子提供は、約2年にわたって、誠実にこつこつと取り組んだプログラムです。平良看護師長にはコーディネーターとして本当に根気強く頑張ってもらいました。日本国内で無償提供卵子による不妊治療が根付くかどうかを念頭に臨んだ取り組みでしたが、多くのドナーおよびレシピエント希望の方達とかかわる中で、さまざまな課題や問題点が浮き彫りになり、検討の末、今年初めに当院での卵子提供プログラムを終了することとしました。このことについては、今年5月29日付の平良看護師長のブログに詳しく記されていますのでご参照ください。

 

次いで、2022年4月からの体外受精への保険適用についてです。この件に関しては、私の考えをいろいろなところに書いてきました。保険診療を行うか、自費診療を継続するか、思案して院内で検討した結果、自費診療のみを選択して、今日まできました。その理由としては大きく2つあります。

 

1つ目は、不妊治療、特に体外受精を単に技術的な治療とは考えていないということです。採卵して、受精卵を移植すればよいというわけではなくて、不妊というクライシスに直面したご夫婦をトータルにサポートしたいと考えているからです。きちんと話を聞き、可能な限り不妊の原因を推測して説明する。そして、その原因に対してどんな治療法があるか(ないか)を一緒に考えていただく。十分に納得していただいた上で治療を始めていただくようにしています。このプロセスは、治療を継続するうえでとても重要で、時間を要するものです。保険診療では、この点が考慮されていないのです。

 

2つ目は、不妊の原因が卵子にある方が多いことです。すなわち、どの生理周期でも良い卵子が育つとは限らないのです。従って、採卵周期に選んだ生理周期にこそ貴重な良い卵子が育つかもしれないと思えば、保険診療の制約(超音波の回数や使用できる薬剤)があってはベストな治療が行えない可能性が出てきます。もちろん結果を確約はできませんが、それでも上記1つ目のプロセスで培った安心感の中でお互いに悔いのない治療行うことに意味があると思っています。

 

卵子提供にしても、自費診療にしても、いつも正しいことを行いたいと思ってやってきました。医学的にはもちろんのこと、倫理的にも、社会的にも、他の人から見て正しいと判断されるような診療を心がけてきました。治療に望むご夫婦と生まれてくる子供たちが幸せになれるよう、お手伝いを続けられたらなあ、と心から思います。時代が変わっても、この思いは変わりません。

卵子提供プログラム終了にあたって

皆さん、こんにちは。

一段と夏が近づいてまいりました。

暑い日、肌寒い日、と気候が落ち着かない日々ですが、体調を崩さないようにしたいものですね。

 

今回は、2020年より当院で開始した卵子提供プログラム終了に関しまして、この場をお借りして、改めてお礼とご報告をさせて頂きたく存じます。

これまでにご応募くださったドナー、レシピエントご希望者をはじめ、卵子提供の開始のきっかけであったNPO法人OD-NET卵子提供登録支援団体様、カウンセラーの方々、レシピエント希望者の受け入れ可否を含めご相談に乗ってくださった医療機関の先生方、

本当にありがとうございました。

心より感謝申し上げます。

 

当院としても非常に残念ではございますが、プログラム継続の可否に関して院長と時間をかけ、話し合いを重ねて参りました。

今回、プログラム終了に至った大きな理由としては、

ドナー、レシピエントそれぞれに、医学的あるいは心理的観点から、治療許可を出せる方が

殆どいらっしゃらなかった事です。

 

当院では安心・安全に治療を行うため、 ドナー、レシピエントともに

① 年齢

② 適性( 医学的検査や診察 / 心理的観点でのカウンセラーによるカウンセリング / 3親等までの遺伝疾患・精神疾患の有無 / 出産・子育ての経験 ※ドナーのみ )

③ 提供卵子による妊娠前〜妊娠後に医学的にフォロー可能な施設の受け入れの確保を行う  ※レシピエントのみ

を条件に、募集を行なって参りました。

 

しかし、知識が殆どなく応募の動機が曖昧な方、医学的・心理的観点から治療を勧められない方、が多く、治療まで至らない方が殆どでした。

そういった事情から、正しくプログラムを運営していく難しさの限界を感じ、今回、終了の判断に踏み切りました。

 

ちなみに、お電話での相談を含めると、50組以上の方からのご応募やお問合せをいただき、実際にご来院まで至った方はその半数の方でした。

ドナー、レシピエントのマッチング後、無事に出産できた方は1組、現在治療中の方は2組です。

数字だけを見ると非常に少ないように思われますが、それが現状です。

それだけ提供卵子による不妊治療は、生まれてくる子供の福祉も含め、夫婦間の治療とはまた異なる難しさ、深さがあります。

 

卵子提供という治療が正しく理解・認識され、日本でも定着していく事を願いつつ、このプログラムを開始し、啓蒙活動(卵子提供を正しく理解する目的)として、卵子提供セミナーも開催して参りました。

セミナーを受講された方々にとって、今後何かのお役に立てたらと願うばかりです。

 

約2年間、卵子提供に携わったことで、新たな生殖医療の視点を広げることができたこと、

倫理観、医療従事者の役割、などを改めて考え、悩んだ良い機会をいただきました。

深く感謝申し上げます。

 

最後はやはり、生まれてくる子供が幸せであることが重要です。

子供の福祉、子供への告知など、様々な課題もありますが、それらを全て理解した上で、卵子提供という治療がドナー、レシピエントにとって良い医療であることを願っています。

 

 

 

卵子提供コーディネーター

平良

移植胚の優先順位付け

皆さん、こんにちは。新年度を迎えて、お忙しい日々をお過ごしのことかと思います。まだ寒暖の差が大きいですから、お互い体調には気をつけましょう。

 

さて今回は、複数ある胚を移植する際に、どの胚から移植するか(優先順位付け)について考えてみます。

そもそも自然周期で採卵する場合は、原則1個しか卵子が得られませんから、得られる胚も1個(または0個)で、順位付けは必要ありません。しかし、自然周期では採卵あたりの妊娠率が低いので、当院では、卵巣刺激によって複数の卵子を採取し、複数の胚を得て、それらの胚に移植の順番をつけることになります。

 

移植胚の順位付けは、今も昔ももっとも一般的な方法は、形態(見た目)によるものです。現在は胚盤胞まで育てて評価することが多いです。ガードナー分類が広く用いられていますが、100%客観的に評価することは難しく、細胞の透明度であったり、フラグメントの量であったりと、基準にない観察所見や、患者さんの臨床背景なども加味して、移植の順位付けを行います。

 

しかし、どんなに綺麗な受精卵でも着床しないことも多く、その理由の一つに染色体の異常があることから、PGT-Aが行われるようになりました。胚盤胞まで培養することとあいまって、今は栄養外胚葉(TE)を採取して調べる方法が一般的です。これは、100個ほどあるTE細胞の中の5-10個程度を採取して調べるため、TE全体を表していない可能性があります。さらに、TEは将来胎盤になる部分であり、赤ちゃんになる細胞ではありません(その部分は内細胞塊、ICM)。

 

従って、TE生検(バイオプシー)では、偽陽性(ICMは正常なのに、TEは異常とでる)のために移植されずに廃棄されてしまう胚が生じることがあります。また逆に、偽陰性(ICMは異常なのに、TEは正常とでる)のために移植されることもあります。

 

さらに、PGT-Aによって正常胚と判断された胚を移植しても、出産率は50%と、形態による評価(順位付け)とさほど大きくは変わりません。上に述べたような、偽陰性によるものに加えて、生検(バイオプシー)による胚へのダメージが大きいと考えられます。

 

そこで、胚に侵襲を加えない評価法として、受精卵が培養液中に放出した物質を調べる方法があります。DNA、RNA、蛋白質がありますが、現時点ではDNAが一番解析されています。培養液中に存在するDNAが胚盤胞のどの細胞に由来するかはわかっていませんが、おそらく全体から放出されると考えられています。つまり、TE生検で得られる5-10個の細胞よりは、胚盤胞全体の状態を表している可能性があります。また、DNAの解析をあまり深く行わずに結果をパターンとして評価すれば、個々の胚の遺伝情報を扱うことにはならないでしょう。

 

DNAにせよ、RNA、蛋白質にせよ、培養液中にあるものを用いて胚を評価し、移植の優先順位をつけることを「非侵襲的な胚の優先順位付け」(non-invasive preimplantation embryo ranking; niPER)と呼んではどうでしょうか。

日々の診療に対する想い 2023

皆さん、こんにちは。

 

今回はこれまでにも何度か書いてきましたが、日々の診療に対する想いをつづります。

 

私は2014年7月に横浜HARTクリニックを開院しました。その前は12年間、東京HARTクリニックに勤務しました。その間私がずっと変わらず願ってきたことは、不妊という人生の大きな試練に悩む患者さんが、その試練ときちんと向き合って、自ら考えて答えを出せるように、医師として、一人の人間として、関わるということです。もし、最終的に妊娠に至らなかったとしても、「このクリニックに出会えて良かった」、「このクリニックだから通院できた」と言っていただければ、それは私達スタッフにとって最高の褒め言葉だと思っています。

 

不妊の悩みは深く、自分自身のものとしての悩みにとどまらず、配偶者や親との関わりにもつながることがあります。特に治療が体外受精まで来ると、身体的負担に加えて、精神的なストレスは相当大きなものになります。従って、医師や看護師の精神的なサポートが重要になりますが、慌ただしい外来の状況ではとても実施することができません。

 

ですから、それぞれの患者さんときちんと関わる(ラポールを築く)ためには、一か月の採卵人数は約20人と決めて開院しました。それに基づいて治療費も決まります。個々の技術(採卵、移植など)にそれぞれ費用はありますが、そこには初診でいらしてから、治療が終了するまでの通院を精神的にもサポートするトータルな費用が含まれています。

 

開院間もない頃は、体外受精の患者さん以外にも、タイミング指導の方、人工授精の方もいらっしゃいましたので、外来で2時間、3時間お待たせすることもよくありました。その時の反省から、3年ほど前からは体外受精の患者さんのみを拝見して、待ち時間がほとんどない、すこしでもストレスの少ない環境作りをしています。

 

昨年4月からの保険適応に伴って、体外受精にも保険点数がつきました。患者さんにとって、3割負担はとても良いことなのですが、処置(技術)だけを切り離して保険点数化され、精神的サポートは考慮されていない(時間をかけて患者さんに説明しても費用が発生しない)ところに問題があります。つまり、保険診療を行うには、時間をかけて説明するよりも、数多くの患者さんを採卵・移植する必要が生じるのです。

 

転院されてくる患者さんの中には、体外受精を何回か受けているのに、ほとんど体外受精についての知識がない方もいます。そのような場合、あらためてそれまでの治療を振り返って、どのような治療をしてきたのか、なぜ結果が出なかったのか、今後どのような治療の方法があるのか、などを一緒に考えて説明します。「納得していただけるまで丁寧に説明をすること」は、8つある当院の診療理念の一つです。

 

当院では、体外受精で妊娠する方の65%は、1回目の採卵で得られた受精卵で妊娠しています。安心して落ち着いて治療に望んでいただけるよう、私達は全力でサポートします。治療のペースは皆さんが決めていいのです。疲れたら休みましょう。悩む時や決断する必要のある時はいつもより長く相談の時間をとりましょう。最終ゴールがどこであっても、私達は皆さんに伴走します。

 

 

 

 

定額費用は好評をいただいています

皆さん、こんにちは。ようやく暖かくなってきましたが、花粉症を持つ人にはつらい時期になりましたね。私も点鼻薬と飲み薬で何とかしのいでいますが、今年はかなり多くの花粉が飛ぶそうですから、お互い気をつけて生活しましょう。

 

さて、今回は「定額費用」の現状についてご説明します。当院では全て自費診療ですが、昨年2022年11月から採卵周期と凍結胚移植周期に定額費用制度を導入しており(詳しくはHP 「費用について」をご覧ください)、好評をいただいています。採卵周期では、採卵前に8-10日間卵巣刺激を行って複数の卵胞(卵子)を育てますが、それに必要な注射や超音波診察、採卵(局所または静脈麻酔)、胚培養全てを含めて定額の440,000円としました。定額制にした一番の理由は、その治療周期がベストな結果につながるよう、必要と思われることを費用の心配なく安心して受けていいただきたいからです。卵巣刺激は簡単なようで実は奥が深いものです。卵胞の発育速度はまちまちでサイズは不揃いですから、どのタイミングで採卵するかを決めるには、きめの細かな診察が必要です。時期が早すぎれば未熟な卵子が多くなりますし、遅すぎれば過熟な卵子が多くなったり、採卵までに排卵してしまったりします。また、刺激注射に反応が良すぎる方(例えば、多嚢胞性卵巣の方や、AMHの値が高い方)は卵巣過剰刺激症候群になるリスクが高いですから、こまめな診察を必要とします。つまり、診察回数に制限がある保険診療では、ベストな結果にならなかったり、合併症を引き起こしたりする可能性があります。

さらに、定額費用440,000円には胚1個の凍結費用も含まれますから、たとえ胚の評価(グレード)が低かったとしても、その胚が唯一の胚盤胞であれば、費用のことは気にせず凍結していただくことができます。

 

私達の目指すものは、できるだけ1回の採卵で妊娠に至る卵子を得ることです。それを安全に、ストレスなく(少なく)達成していただけるように、最善を尽くします。

今後の診療について

皆様こんにちは。

いつも当院の診療にご理解とご協力をいただきまして、心より感謝申し上げます。

段々と春の気配が感じられるようになりましたね。

この時期、花粉症の方は非常にお辛い時期かと思われます。

どうぞお大事になさって下さい。

 

さて、今回は4月以降の当院の診療についてお伝えしたいと思い、こちらのブログに書かせていただきました。

現在、当院の休診日は水・日・祝日と土曜日の午後ですが、

4月から火・金・祝日と木曜日の午後が休診日となります( 月・水・土・日は終日、木は午前のみ診療を行います)。

診療時間は今と同じです。

採卵・移植は、休診日以外で対応いたしますので土曜日・日曜日も実施いたします。

医師からご指示があった方やお仕事等で都合がつかない方は、休診日( 火・金・祝日)の午前中に診察を行いますのでご安心下さい。

初診の予約枠も変更になりますので、決定しましたらお知らせいたします。

 

休診日を変更した理由は、平日仕事をされている方の通院の負担軽減と、

第2子以降の治療でご通院中の方で「土日であれば夫に子どもを預けられるため通院しやすい」というご意見もお伺いし、

少しでも皆様が通院をしやすい環境作りを行いたかった為です。

 

これからも、変わらず一人ひとりの方ときちんと向き合い、丁寧な診療を続けてまいります。

診療運営についてご意見やご感想がございましたら、ぜひ教えていただけましたら幸いです。

少しでも皆様がご通院しやすいよう、これからも努力してまいります。

 

 

看護部  平良

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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