横浜HARTクリニック

〒221-0835 神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町3-32-13 第2安田ビル7階

横浜HARTクリニック

ブログ・コラム

Blog・Column

ホームページをリニューアルしました

皆さん、こんにちは。

この度、ホームページをリニューアルしました。当初の予定では開院月に合わせて7月末に完成の予定でしたが、私の怠慢により3ヵ月遅れての公開になりました。5年前、開院時に作成したものに比べると、ホームページのスタイルも大分変わったなあというのが実感です。自分の写真も5年分歳をとり、白髪も増えたのがよくわかります。以前に通院いただいた方々にも、今の私はこんな感じで働いています、と伝わって欲しいですね。

2つお話しさせてください。1つは、5年前はホームページをご覧になる方の6割がPC、4割がスマホ等でしたが、現在は9割の方がスマホ等で、1割がPCです。私はPCの方が慣れているせいもありますし、ホームページの作成もPC画面でしているので、スマホで当院のホームページを見ると少し違和感があります。PCもスマホも全く同じ内容ですが、スマホは縦に縦に情報が出てきてどこか落ち着かない感じです。PC画面は広さがあり、景色、情景として、情報以上に伝わるものがあるような気がします。お時間があれば、PCもぜひご覧ください。

2つ目はウェブ(インターネット)予約です。今回のホームページのリニューアルに合わせてウェブ予約の準備も進めたのですが、最終的には今のままの電話予約を継続することにしました。理由は、開院からの思いである、一人一人の患者さんときちんと向き合いたいと思う気持ちからです。限られた日々の診療時間の中で、私たちの時間を、皆さんに公平に最大限の満足をいただけるように割り振るためには、やはり電話で話す必要があります。生理開始とともにいただく電話がつながりにくいこともあると思いますが、実際にお話しをして、診療内容やご相談内容によってご来院の時間を決めることで、ご来院の際にはきっとご満足いただけると思います。

ホームページにとどまらず、私たちもまだまだ試行錯誤の日々です。お気づきのことがあれば、遠慮せずスタッフに直接お話しいただくか、待合室の洗面台横に設置してあるご意見箱に投函いただければ幸いです。

不妊治療について

「不妊(症)とは」にも書きましたが、これ以上性交を続けていても妊娠する気がしない、と思った時が不妊治療専門クリニックを受診する時期です。不妊治療には必ずしも決まった進め方があるわけではありませんが、通常は人工授精、体外受精へと進みます。人工授精は比較的敷居が低い治療として広く行われてきましたが、マスターベーションで採取した精液中の運動精子の10%程度しか回収できませんし、女性側の原因を解決することはできないので、あまり治療効果の高い方法ではありません。通常は3-4回行って妊娠に至らなければ体外受精へ進みますが、男性因子、卵管因子、女性年齢が40歳以上等の原因の場合は、人工授精をせずに体外受精へ進むことも考慮します。

人工授精で妊娠しない場合は、体外受精へ進みます。体外受精を行うことで、受精から受精卵(胚)発育、子宮の着床環境までそれぞれを細かく見ることができ、真の不妊原因(精子、卵子、卵管、子宮)がわかります。それだけ治療効果が高い方法で、妊娠できる方の70%が1回目の体外受精で妊娠します(「当院の実績」参照)。しかし、真の原因が卵子の質にあり、体外受精でも解決が難しいことがわかってショックを受ける方もいます。1日でも早く妊娠したいとの思いから治療を急がれる方もいらっしゃいますが、当院では体外受精の必要性、および体外受精の効果と限界をきちんと理解していただいてから治療を受けていただくようにしていますので、ご希望の生理周期に治療を受けていただけない場合もあります。

不妊治療のゴールは目の前のご夫婦が妊娠、出産することだけではありません。ご夫婦がどれだけ子供を望み、どのような治療の末に授かったのかを、生まれてくる子供にきちんと話せるように、そして生まれた子供が、このお父さん、お母さんのもとに生まれて良かったと思えるように、お手伝いすることも私達の重要な仕事だと思っています。

不妊症の原因

不妊症の原因について

世界保健機構(WHO)の統計では、不妊症の原因が女性側のみ(41%)、男性側のみ(24%)、男女双方(24%)、原因不明11%、となっており、不妊症夫婦の約半数は男性にも原因があることがわかっています。

女性側の原因では、卵子の老化、卵管の異常、排卵障害、ホルモン異常、クラミジア感染症、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮奇形、子宮頚管粘液の異常、子宮内膜の異常、抗精子抗体、等があります。

男性側の原因では、精子の数や運動性等の異常、性機能の問題(性交障害)等があります。精子数等の異常の原因として、ホルモン異常、精索静脈瘤、精路通過障害、精巣腫瘍等が見つかることがあります。

 

女性側の主な原因

  • 卵巣:卵巣機能不全
  • 卵管:狭窄(きょうさく)癒着、閉鎖、水腫(すいしゅ)
  • 子宮:筋腫(きんしゅ)、奇形、発育不全
  • 内分泌ホルモン異常
  • 子宮内膜症
  • その他

男性側の主な原因

  • 精巣(睾丸):無精子症
  • 精路閉鎖
  • 性交障害
  • 内分泌ホルモン異常
  • その他

不妊(症)とは

不妊(症)とは、「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合」(日本産科婦人科学会編、産科婦人科用語集改訂第4版)と定義され、「その一定期間については1年というのが一般的である」とされています。

しかし、妊娠に至らない原因はご夫婦ごとに異なります。例えば、左右の卵管が両方つまっている場合や精子の運動率が非常に低い場合には自然妊娠は難しく、体外受精や顕微授精が必要になりますから、1年間性交を続けることは結果的に時間のロスになってしまいます。ですから、妊娠に至らない期間にこだわる必要はありません。ご夫婦が「このまま性交を続けていて妊娠するのだろうか?」と思う時が専門医に相談する時期です。

また、図に示したように、女性の年齢が高くなるにつれて妊娠の可能性が低くなりますから、いつまでも検査を受けずにいると治療できる時期を逸してしまうかもしれません。35歳以上の女性であれば1年間、40歳以上の女性であれば半年間、積極的に性交を行っても妊娠に至らなければ、一度専門クリニックを受診して相談されることをお勧めします。男性側に原因があることも多いですから、できるだけご夫婦で一緒に受診するようにしましょう。

残暑お見舞い申し上げます

蒸し暑い日が続いていますが、いかがお過ごしですか?

ブログがしばらく空いてしまいました。理由は2つあって、一つは6月、7月は体外受精治療の方が多く診療が忙しかったため、もう一つはホームページのリニューアルを予定していてそれに合わせて書こうと思いながら、リニューアルが遅れているためです。5年前開業時に作った現在のホームページは折に触れて書き加えたり、修正したりしながら維持してきました。5年分の愛着もあるのですが、初めて見る方にとっては今風ではありませんよね。5年を目途にリニューアルする予定でしたので、できるだけ早く仕上げて公開したいと思います。

開業から5年が経ちました。ART(Assisted Reproductive Technology: 生殖補助医療、私は個人的には補助生殖技術と訳します)の分野でもいろいろな新しい機器や検査が導入されていますが、本当に出産率を向上させるのかはまだわかりません。私は以前から不妊治療はできるだけシンプルな方がいいと思っています。良い卵子と良い精子の出会いを助けること、それが全てです。良い卵子と良い精子の出会いは確率的なものです。卵子と精子に手を加えることはできませんし、加えるべきでもないと思います。卵子と精子の確率的な出会いによって生まれる多様性こそ、私たちヒトという種を維持し、意味のある社会生活を営んで行く上で最も大切なことだと思います。

そして、いつも書きますが、不妊治療のゴールは妊娠、出産ではなく、生まれてくる子供達が幸せな人生を送れることだと考えています。私個人の限られた人生において、そんなに多くの患者さんを診ることはできません。しかし、だからこそ一人一人の方と時間をかけて、不妊という状態を理解し、受け入れ、夫婦で克服していくお手伝いをしたいと思います。妊娠という結果だけではなく、その過程がご夫婦にとって、生まれてくる子供にとって最良のものとなるように。

平成最後の日に寄せて

皆さん、こんにちは。肌寒い日が多いですが、ゴールデンウィークをいかがお過ごしでしょうか?今年は暦の上では10連休、休日の方も仕事の方もそれぞれにお過ごしのことでしょうね。クリニックは例年通り、ほぼ隔日で体外受精の方の診療を行っています。

さて本日で平成が終わりますが、私個人としては特別な思いはなく、普段の一日と変わりません。確かに平成30年間を振り返れば、多くの出来事がありましたが、それは平成に限ったことではありません。自分も昭和より平成を長く生きてきましたが、それでも私という人間を形成したのはやはり昭和だと思います。

私にはこれまで繰り返し繰り返し読んできた本が3冊あります。「東京大空襲」(早乙女勝元、岩波新書)、「きけ わだつみのこえ」(日本戦没学生記念会編、岩波文庫)、「羊の歌、続羊の歌」(加藤周一、岩波新書)です。前2冊は中学生、3冊目は高校生の時に初めて読み、思春期の私に大きな影響を与え、それ以来折に触れて読み返してきました。「東京大空襲」は1945年3月10日の東京、本所・深川辺りの無差別空襲を、「きけ わだつみのこえ」はご存じだと思いますが、太平洋戦争期における戦没学徒兵の手記です。「羊の歌」は1919年生まれの加藤周一の自伝的随筆で、戦時中を生きた青年の冷静な視点がとても印象的です。加藤周一はもともとは内科医でしたが、医学の世界に収まらない社会全体への興味から作家へ転向しました。その文章は医者、科学者としての冷静で客観的な分析に基づいていて、私には読んでいてとても心地よいものです。

私はこれらの本から「個人と社会」、「個人と組織」、「個人と国家」について考えるようになり、いつの時代も一般市民には必ずしも真実は伝えられず、ニュース番組も新聞記事も一旦疑って自分で考え取捨選択する必要があると思うようになりました。その性質は医者になっても変わらず、さらに大学院での指導教官からも「まずは全てを疑う」ことを訓練されました。ですから、論文を読む時もそのまま鵜呑みにすることはなく、まずは批判的に読んでどこにも疑問点がなければ判定保留にします。あとは可能であれば自身の日々の診療においてその真偽を確かめるようにしています。

不妊治療の領域では、そもそも妊娠自体が確率的事象であるため、論文には不確定な要素が多いという制約が伴います。体外受精では、卵子、精子、受精卵を体外に出して培養、観察するため多くの研究論文が発表されますが、論文の結論について真偽の判定は容易ではありません。従って、時間の流れと共にその有効性が試され、妊娠率を上げるとして昔実施されていた付加的治療のほとんどは、その有効性が証明されず現在行われなくなっています。今新たに行われている付加的治療の多くもいずれ淘汰されて実施されなくなるでしょう。おそらく最終的に残るものは、実は体外受精が始まった頃から行われている基本的な事になるのでしょう。

これまでにも書いてきましたが、これからの時代が生まれてくる子供達にとって幸せなものであり、ご両親が安心して豊かな子育てができる世の中であって欲しいと心から願います。そのために、目の前の、そしてこれからの社会を見据えて、生殖医療従事者として、人として努力していきたいですね。

治療としての人工授精の位置づけ

皆さん、お元気ですか?

最近、初診でいらっしゃる方で、性交がうまく持てないからという理由の方が増えているように思います。お互い仕事が忙しくて時間が合わないとか、疲れていてそういう気になれないとか、性交に痛みを伴うので怖くてできない等、いろいろな背景がおありだと思います。そういう悩みでいらっしゃる方の多くは人工授精を希望して来院されますが、私はまずご夫婦で自己授精(シリンジ法とも言うようです)をトライしてみるようにお話ししています。

自己授精とは、男性がマスターベーションで精液を採取し、それをシリンジ(注射器の針を取った部分)に吸引して、女性の腟内へ注入する方法です。マスターベーションが出来ないと行えませんが、性交によって腟内に射精するのと同じ効果が期待できます。通院する負担もありませんから、時間と費用を節約することができますし、医療従事者、第三者が関わることなく、ご夫婦だけで実施できるところにも意味があると考えています。

そもそも、人工授精は不妊治療としての位置づけがあいまいで、妊娠率も高いものではありません。身体的、経済的負担が少ないので、タイミング性交を頑張ったあとのステップとして広く行われていますが、妊娠率は患者さんあたり10%程度です。この数字はうまく性交が持てないという理由の方々に限ってもあまり変わりません。このことは、人工授精の治療法としての限界を示すものです。人工授精では、採取した精液中の運動精子の10%程度しか回収できませんし、人工授精当日の精液所見に左右されますから、排卵時期の少し前から自己授精を何回か繰り返すほうがより効果があるかもしれません。

もちろん、タイミング性交を十分に頑張ったというご夫婦が人工授精をトライしてみるのはいいと思います。妊娠率が10%程度とはいえ、より負担が少ない治療で妊娠できればそれに越したことはありません。人工授精で妊娠する方の多くは4回目までに妊娠していますから、年齢的に余裕のある方は4回までを目途にトライしてはどうでしょうか。

もし人工授精で妊娠に至らなくても、あまり落ち込まないでください。卵管因子や卵巣因子など、人工授精では解決できない原因が隠れてることも多いですから、結果が出なければ次のステップを考えましょう。体外受精での患者さんあたりの妊娠率は40歳未満であれば60-80%になりますから安心してください。

2019年もよろしくお願いします

皆さん、こんにちは。寒く乾燥した日が続いていますが、いかがお過ごしですか?

皆さんがそれぞれの思いで新しい年をお迎えになったことと思います。2019年もどうぞよろしくお願いします。

今年の7月に、横浜HARTクリニックは開院から5年を迎えます。1年目、3年目、5年目が節目と思いながら日々診療をしてきました。5年目は数ある不妊治療施設の中で横浜HARTクリニックらしさが出てくればいいと思っていましたので、その目標には近づいていると思います。また、ホームページのリニューアルや、リース機器の見直しなどハード面での目標も一つ一つ達成していきたいと思っています。

近年不妊治療がメディアに取り上げられることも多くなりました。様々な雑誌や書籍も出版され、インターネット上にはいろいろな意見が溢れています。それらの中には矛盾するものもあり、丁寧に読む人ほど混乱し不安になるのではないでしょうか?

私は不妊治療は本来シンプルなものであると思っています。通常、夫婦が1-2年の間、排卵日を意識することなく週に2-3回の性行為を続けていると、80%くらいが妊娠に至ると言われています(しかし、この割合は女性の年齢が30代半ばくらいまでで、30代後半以降ではもっと低いと考えた方がいいでしょう)。従って、20%、5組の夫婦に1組の割合で不妊治療施設を訪れることになります。

外来の検査で原因がはっきりすると思っている方が多いですが、外来の検査で調べられるものは限られていて、原因を特定できる夫婦は10-20%程度です。本当に知りたい卵子や精子の質、卵管の機能(詰まっていないかだけではなく卵子をピックアップできるか)、着床能力などを外来検査で調べることはできません。従って、「もうこれ以上性行為を続けていても妊娠するとは思えない」と感じたら、検査結果によらず治療を進めることになります。その治療法として何が良いかは、それぞれの方で異なりますが、通常は3-4回人工授精を行った後に体外受精へ進むことになります。

体外受精も現在ではかなり一般的な治療となり、丁寧に患者さんを見ていけば安全で有効な治療法です。そして、上述したように本来「シンプル」なものです。卵子を採取して体外に取り出し、精子と一晩一緒にすることで受精をさせ、できた受精卵を子宮に移植します。良い受精卵が複数あれば将来の移植のために凍結保存することも可能です。卵子と精子が物理的に出会えないことだけが不妊の原因であれば、大半の夫婦が1回の採卵で妊娠に至りますが、いい卵子といい精子がなければ、どんなにベストを尽くしても体外受精はうまくいきません。そして役割の上からも数の上からも、特にいい卵子が得られるかどうかにかかっています。

では「いい卵子」はどのようにしたら得られるのでしょうか?この質問はほぼ毎日患者さんから受けますが、一番知りたいことですよね。残念ながら、エビデンスのある解決法はなく、単純に確率によるところが大きいです。タイミング性交でも1年間は頑張るように言われるのは、いい卵子が育つ生理周期は頻度の高い方でも3周期に1回、低ければそれこそ10周期、1年に1回とも考えられるからです。

もちろん刺激周期では、刺激法を変えたり、使用する注射薬剤を変えたりしますが、主に副作用を軽減したり採卵できる卵子数を増やしたりすることが目的で、卵子の質を大きく変えるものではありません。医師から何か新しいことを提案されたり、あるいは自ら試してみたいと思うことがあって、それを行った治療周期に良い卵子が得られて妊娠したという方も多いでしょうが、本当にそのことが効を奏したのか、たまたまその周期にいい卵子が得られたのか、因果関係を証明することは簡単ではありません。私は、どちらかと言うと経験上、単純によい周期にめぐり会っていい卵子が得られた可能性が高いと考えていますが、結果が良ければ因果関係を証明することにもあまり意味はありません。いずれにしても、その生理周期に採卵をしたことが、その方の運命なんだなあ、とその度に思います。

いい卵子がいつ得られるのかはっきりとした答えのない中治療を続けていくことは大変なことだと思います。しかし、自然妊娠ということ自体が持つ不確定な要素を理解して、不妊治療がその上に立つものであると認識していただければ、いい意味である程度淡々と治療と向き合うことが出来るかもしれません。

2018年もありがとうございました

皆さん、こんにちは。かなり寒くなってきましたね。

2018年もあと2日となりました。今年も多くの方々に横浜HARTクリニックにご通院いただき、ありがとうございました。心より感謝申し上げます。

今年は一時期体外受精治療をお待ちいただくなど皆さんにご迷惑をおかけしましたが、現在は通常通り治療を行っていますのでご安心ください。

私も久しぶりに体外受精の培養業務に関わり、卵子、精子、受精卵を自分の目で確認する機会を得ました。体外受精と出会って25年になりますが、何度見ても受精卵の持つ驚くべき生命力に感動させられます。何十年も卵巣の中で眠っていた卵子が、精子と出会って受精することでスイッチが入り発生を始める。分割を繰り返しわずか数日のうちに細胞数が200近くにもなり着床に備える。そのプログラムがどこに書かれていて、どのように実行されるのか、神秘ですね。私は昔、そのような力を卵子の遺伝子発現から解き明かそうと研究していましたが、結局いくつかの遺伝子を見つけただけで、研究すればするほど全体を解き明かすことなど到底無理だろうと思えてきて、また臨床に専念することにしました。

何十年も眠っていられた卵子も受精して一旦スイッチが入った後は、発生がうまくいかないと死んでしまいます。生か死か、発生とは種の保存をかけた大きな賭けなのです。生きようとする受精卵を見ていると、目の前の受精卵に手を加えて遺伝子を編集したり、特定の遺伝子や染色体を持つ受精卵を選別したりすることは、神をも恐れぬ行為なのかもしれません。受精卵が本来持つ力を信じて、その力を発揮させて、それを受け入れていく社会が必要なのではないでしょうか?

生まれてくる子供たちにとって、世の中が少しでも住みやすく充実したものであってほしいと願わずにはいられません。2019年が、皆さんにとってより良い年になりますように。

よいお年をお迎え下さい。

着床前診断(PGT-A)について

皆さん、こんにちは。変わりありませんか?2018年も残り2週間、平成最後の年末になりましたね。

さて、先日(12月16日)日本産科婦人科学会倫理委員会主催の公開シンポジウム、「着床前診断―PGT-A 特別臨床研究の概要と今後の展望―」に参加しました。何年か前にも同じテーマのシンポジウムに参加しましたが、今回は日本国内で実施された80組程度の夫婦の着床前診断の結果についての報告であり、新聞記事をご覧になった方も多いのではないかと思います。

私は今から25年前、1993年にアメリカで受精卵の性別を調べる研究をしていました(2015年9月18日のブログ参照)が、その後着床前診断は技術的な発展を遂げ、近年は遺伝子疾患だけではなく、46本全ての染色体の構造異常や本数の異常をも調べられるようになりました。

今回のシンポジウムで特に議論されたのは、着床前診断の中でも染色体の本数の異常を調べるもの、preimplantation genetic test for aneuploidy (PGT-A) です。妊娠初期の流産の原因で最も多いものは胎児の染色体異常であり、今回の臨床研究は体外受精による着床不全や初期流産を繰り返す習慣性流産の患者さんにPGT-A を行い、正常胚を選択して移植することで妊娠、出産率が向上するかを調べたものです。これまでのデータ解析では改善傾向が認められるとのことでした。

ヒトは合計46本の染色体(1番から22番までの22対の常染色体44本と、XX または XY の性染色体2本)を持っています。対になっているのは、父親(精子)と母親(卵子)から同じ番号の染色体を1本ずつ受け継ぐからです。同じ番号の染色体が正常の2本ではなく、3本ある場合をトリソミー、1本しかない場合をモノソミ―といい、「いずれの場合も」妊娠初期に流産します。したがって、PGT-A によって各染色体の本数を調べ、正常な受精卵のみを移植することで移植あたりの出産率は向上するはずです。

ここで倫理的な問題が出てくるのですが、以下に説明します。

3行上に「いずれの場合も」と書きましたが、正確ではありません。正確には、「13番、18番、21番のトリソミーの一部を除くいずれの場合も」になります。13番、18番、21番トリソミーも多くは初期流産に終わりますが、一部の受精卵は妊娠初期を乗り越えて出産まで進みます。

PGT-A によって正常な受精卵があった場合には、その正常な受精卵をを移植します。従ってもし、13番、18番、21番トリソミーを持つ受精卵があったとしても、その他の異常受精卵と同様に流産する受精卵として廃棄され、あまり意識されないと思います。

しかし、正常な受精卵がなく、21番トリソミー(ダウン症)を持つ受精卵があった場合に、流産する可能性が高いが、うまくいけば赤ちゃんを出産できる。移植するか、廃棄するか。まさに命の選択を問われることになります。

不妊治療には正解はありません。それぞれの夫婦が置かれた状況によって、自ら考えて決定し行動するしかありません。一所懸命考えて悩んで出した結論なら、それが正解です。PGT-A も国内で実施が認められれば、受けるか受けないかは、各夫婦が十分な説明を受けた上で決めて欲しいと思います。

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