横浜HARTクリニック

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平成最後の日に寄せて

皆さん、こんにちは。肌寒い日が多いですが、ゴールデンウィークをいかがお過ごしでしょうか?今年は暦の上では10連休、休日の方も仕事の方もそれぞれにお過ごしのことでしょうね。クリニックは例年通り、ほぼ隔日で体外受精の方の診療を行っています。

さて本日で平成が終わりますが、私個人としては特別な思いはなく、普段の一日と変わりません。確かに平成30年間を振り返れば、多くの出来事がありましたが、それは平成に限ったことではありません。自分も昭和より平成を長く生きてきましたが、それでも私という人間を形成したのはやはり昭和だと思います。

私にはこれまで繰り返し繰り返し読んできた本が3冊あります。「東京大空襲」(早乙女勝元、岩波新書)、「きけ わだつみのこえ」(日本戦没学生記念会編、岩波文庫)、「羊の歌、続羊の歌」(加藤周一、岩波新書)です。前2冊は中学生、3冊目は高校生の時に初めて読み、思春期の私に大きな影響を与え、それ以来折に触れて読み返してきました。「東京大空襲」は1945年3月10日の東京、本所・深川辺りの無差別空襲を、「きけ わだつみのこえ」はご存じだと思いますが、太平洋戦争期における戦没学徒兵の手記です。「羊の歌」は1919年生まれの加藤周一の自伝的随筆で、戦時中を生きた青年の冷静な視点がとても印象的です。加藤周一はもともとは内科医でしたが、医学の世界に収まらない社会全体への興味から作家へ転向しました。その文章は医者、科学者としての冷静で客観的な分析に基づいていて、私には読んでいてとても心地よいものです。

私はこれらの本から「個人と社会」、「個人と組織」、「個人と国家」について考えるようになり、いつの時代も一般市民には必ずしも真実は伝えられず、ニュース番組も新聞記事も一旦疑って自分で考え取捨選択する必要があると思うようになりました。その性質は医者になっても変わらず、さらに大学院での指導教官からも「まずは全てを疑う」ことを訓練されました。ですから、論文を読む時もそのまま鵜呑みにすることはなく、まずは批判的に読んでどこにも疑問点がなければ判定保留にします。あとは可能であれば自身の日々の診療においてその真偽を確かめるようにしています。

不妊治療の領域では、そもそも妊娠自体が確率的事象であるため、論文には不確定な要素が多いという制約が伴います。体外受精では、卵子、精子、受精卵を体外に出して培養、観察するため多くの研究論文が発表されますが、論文の結論について真偽の判定は容易ではありません。従って、時間の流れと共にその有効性が試され、妊娠率を上げるとして昔実施されていた付加的治療のほとんどは、その有効性が証明されず現在行われなくなっています。今新たに行われている付加的治療の多くもいずれ淘汰されて実施されなくなるでしょう。おそらく最終的に残るものは、実は体外受精が始まった頃から行われている基本的な事になるのでしょう。

これまでにも書いてきましたが、これからの時代が生まれてくる子供達にとって幸せなものであり、ご両親が安心して豊かな子育てができる世の中であって欲しいと心から願います。そのために、目の前の、そしてこれからの社会を見据えて、生殖医療従事者として、人として努力していきたいですね。

記事監修
院長 後藤 哲也
経歴

東京大学医学部卒業

産婦人科研修医(東大附属病院分院、都立築地産院、国立習志野病院)

アメリカウィスコンシン大学高度生殖医療施設

イギリスロンドン大学大学院  医学博士(生殖遺伝学)

オーストラリアモナッシュ大学体外受精施設

東京HARTクリニック副院長
横浜HARTクリニック開業

資格

日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医

日本生殖医学会認定生殖医療専門医

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