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良い卵子は作るべきか探すべきか?

体外受精にしても、タイミング性交にしても、妊娠するために重要なことは、いい卵子が精子と出会って受精することです。その際、いい卵子は作るべきなのか、探すべきなのか、という議論をすることができます。

目の前に得られた卵子が良くない場合、その卵子を良くすることが可能なら、体外受精を受ける方のは多くは、1回でうまくいくでしょう。卵子の質を改善する方法として、卵子の細胞質(ミトコンドリア)移植や核置換などが以前から提唱されていますが、科学的・医学的にはナイーブなレベルにとどまっています。iPS細胞から精子や卵子を作ることも可能になりつつありますが、体内で自然に作られる精子、卵子とまったく同じ性質のものであるかどうかはわかりません。

私自身の臨床と基礎研究の経験からみると、卵子という細胞は高度に分化していて、その働きは神秘的としか言いようがないくらいに巧妙で複雑です。受精後に一人の人間を作り上げるプログラムが、単純な人工的操作で改善できるとはとても思えません。

私が医学生から研修医の頃(1990年前半)には、遺伝子治療が注目されていて、私も非常に興味を持って勉強したことがあります。その際のガイドラインとして、遺伝子治療は体細胞(その人、一世代で終わる細胞)に限って行い、精子と卵子、つまり次の世代につながる生殖細胞には遺伝子を導入してはいけない、という常識がありました。したがって、上に書いたような、卵子を操作することには違和感があります。

さらに、体外受精がなかなかうまくいかない方々が、ようやくいい胚盤胞ができ、妊娠、出産に至るという経験を重ねると、「良い卵子は良いのだ」という当たり前なことに改めて感動を覚えます。次の世代を担う子供たちに対する責任を考えると、現時点では、不確かな点の多い卵子の質改善法よりは、良い卵子が得られるまで根気よく待つ方を選択したいと思います。

染色体が正常な受精卵の割合

体外受精・胚移植で、見た目はきれいな受精卵なのに、なかなか着床しない方はたくさんいらっしゃいます。すると、いつも「受精卵の問題なのか」あるいは「子宮の問題なのか」ということになります。

私は、よほど大きな子宮の問題がなければ、大半は「受精卵の問題」と考えています。日本では受精卵の着床前スクリーニング(PGS、最近は着床前検査、preimplantation genetic testing; PGTともいいます)が公式には認められていないので、どうしても海外のデータに頼ることになりますが、コンセンサスとしては以下の通りです。

胚盤胞まで育った受精卵の染色体(22対の常染色体とXY性染色体すべて)を調べてみると、正常な受精卵の割合は、女性年齢が30代前半で60%、30代後半で30-40%、40代になると20%以下です。この割合は5日目の胚盤胞でも、6日目の胚盤胞でも同じです。

さらに、染色体正常な胚盤胞を一旦凍結後、別周期に移植した場合の着床率は年齢に関わらず50-60%程度です。この理由は、染色体以外にも受精卵の力を左右する様々な条件(たとえば、ミトコンドリア)があるからです。

これらのデータから、1個ずつ胚盤胞を移植した場合の移植当りの妊娠率(= 着床率)は、女性年齢が30代前半で35%、30代後半で25%、40代では10%程度、ということになります。すなわち、30代前半では3個、30代後半では4個、40代では10個くらい移植する必要があるということです。もちろん最初に移植する胚で妊娠する方も多くいらっしゃいますが、もしうまくいかなかったとしても、あまり悲観的にならず、このくらいの個数移植する必要があるんだ、と考えてください。

よい受精卵を得ること、場合によっては凍結保存して貯めることが最大の目標です。採卵数の多い方少ない方、年齢の高い方低い方、流産経験のある方ない方など、皆さんの背景も異なりますから、どのような治療方針が良いかは十分に相談して決めるようにしています。

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