横浜HARTクリニック

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次のステージへ

朝晩寒くなってきましたが、皆さん元気にお過ごしですか?前回の投稿からあっという間に2週間以上経ってしまいました。

去年開業した時の目標の一つに、「月に20人の方の採卵を安全に確実に行い、平均妊娠率30%を目指す」ことがありました。刺激周期では、OHSSなどの副作用に気をつけながら、最適な日に採卵を行い、複数の卵子や受精卵を培養し、予定した日に移植するため、医師、看護師、受付事務、培養士の全員がチームとして患者さんの状態を十分に把握しておく必要があります。この3ヶ月を振り返ると、月に約20人の方の採卵があり、副作用もなく目標妊娠率もほぼ達成できたと思います。

しかし、患者さんからは。「待ち時間が長い日がある」、「薬の説明が十分でない」、というような様々なご指摘もいただいています。ご指摘については、その都度スタッフで共有し、改善策を検討するようにしていますが、お気づきの点があれば、遠慮なく私またはスタッフに伝えていただくか、洗面台横の「ご意見箱」に投函してください。

今後は、現在の診療システムが、より満足していただけるものになるようスタッフ一同初心を忘れず努力します。そして、クリニックの次のステージとして、卵子提供、卵子の凍結保存、着床前スクリーニングなど社会的、倫理的に議論のある領域についても、これまでの国内外での経験を生かしながら、世の中のニーズに答えられるよう準備をしていきたいと考えています。

「わかりません」という言葉の重み

前々回、Marilyn Monk 教授のことを書きましたが、他にも大きな影響を受けた人が何人かいます。その中の一人は、私が医学生だった当時、東大の内科教授でした。その方とは病棟実習後の口頭試問で接しただけですが、頂いた一言にはインパクトがありました。

受け持った患者さんについてのプレゼンテーションに対する質問がいろいろとあるわけですが、私が「わかりません」というと、その教授は「わからないというのは、君が勉強不足で知らないの?、それとも世界中の誰もしらないの?」と言われました。

もちろん私の勉強不足なのですが、この一言には目を覚まされました。考えてみれば当たり前のことです。目の前の患者さんの命や人生がかかっているわけですから、私が最大限の努力をしなくて済むはずがありません。

その後今に至るまで、わからないことは徹底的に調べてからものをいうようにしています。調べる際には、Monk 教授から学んだ、論文を常に批判的に読む姿勢が役立っています。皆さんからの質問に、私が「わかりません」とか「答えがないと思います」とかいう時には、「わからない」という言葉の重みを感じた上での、誠実な答えであるとご理解ください。

体外受精治療の間の自然妊娠

この1-2カ月、妊娠された方が多かったのですが、中には体外受精の合間に自然妊娠された方も何人かいらっしゃいました。素晴らしいことです。治療任せにせず、ご夫婦がきちんと夫婦生活をもっていらっしゃることがとてもうれしく思われます。

ホームページの「当院の実績」にも書いたように、精子と卵管機能に異常がなければ、体外受精周期以外のいつでも妊娠のチャンスがあります。

何年もタイミングで頑張って上手くいかなかったご夫婦が、なぜ体外受精治療周期の合間に妊娠できたかについて、私は次のように考えます。

1.卵巣刺激をしたことによって、排卵までに2-3ヶ月かかるような小さな卵胞の機能が活性化した。したがって、体外受精周期ではなく、その後の自然周期に刺激効果が現れた。

2.採卵のために針を卵巣に刺入したことで、卵巣内で血管新生などの新陳代謝がおこり、卵胞発育に良い影響を及ぼした。

3.卵巣刺激によって卵巣が腫大した(腫れた)ことで、卵巣のそばにある卵管が引き延ばされて周囲との癒着がとれ、卵子のピックアップができるようになった。

4.体外受精によって卵子と精子が出会えば受精することがわかり、より積極的にタイミング性交が持てるようになった。

いずれも臨床的に証明することは難しいですが、体外受精をしたことがプラスに働いたと考えてよいでしょう。タイミング性交、人工授精、体外受精といった方法にこだわることなく、6か月から1年の間に結果を出せるように、治療をご提案したいと思います。

ロンドンでの大学院生活

アメリカで着床前診断の仕事をした後(前々回参照)、日本へは戻らずにロンドンの大学院に入学しました。自分で手紙を書いて、Marilyn Monk教授の研究室に入れてもらいました。意外と知られていませんが、Marilynは世界で最初に、蛋白質およびDNAレベルで着床前診断が可能であることを示した研究者です。

Marilyn のもとでは、着床前診断から離れて、彼女の主な研究分野であるepigenetics、特に精子、卵子、受精卵のDNAのメチル化とX染色体の不活性化に関する基礎研究を行いました。彼女とは学位取得後も含めて、5年半ほど仕事をし、何本かの論文も書きましたが、それ以上に、彼女からは仕事に対する姿勢について多くを学びました。

何をしろという指示をもらったことはほとんどなく、自分で過去の論文を読み漁って研究題材や実験手順を決め、都度進捗状況を報告に行くスタイルでした。しかし、Marilynはたいていの論文は読んでいて、それも細部にわたって丁寧に読み、それぞれの論文について必ずいくつかの弱点を拾い出していました。その上で、私のデータを見て、丁寧に厳しく指導してくれました。

Marilynは研究者として顔が広く、私が行き詰まると、「○○に聞いてみたら?」と言ってよく連絡先を教えてくれました。Marilynの大学院生だと伝えると皆親切にアドバイスをくれたり、装置を使わせてくれたり、大変ありがたく思いました。放任主義ではありましたが、常に真実を求めて不正を許さず、レポートや論文の下書きには真っ赤になるほど添削を入れてくれ、自分のために割いてくれた時間に感謝したものです。

このロンドンでの大学院生活以来、私も常に論文を批判的に読み、本当に正しいと確信できるものだけを取り入れる癖がつきました。不妊症領域では、患者さんの背景が一様でなかったり、母集団が小さかったりで、結果が正しいのかどうかわからない論文が多く、そういうものは「参考として、結論は保留」と判断しています。したがって、安全性に問題がないと思われる内容であれば、患者さんに「こういう方法が報告されていますが、試してみますか?」というように相談して、自分でデータをとり、有効かどうか結論するようにしています。

大学院生活から20年近く経ち、Marilynも80歳を過ぎましたが、今でも時々「この論文は読んだか?、あの論文はおかしい」「このアイデアをどう思う?」とメールをくれます。なぜ、どこの馬の骨とも分からない私を研究室に受け入れてくれ、親身になって指導し、今でも気にかけてくれるのか分かりませんが、私にとっては人生の恩人の一人です。

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