皆さん、こんにちは。寒い日が続きますが、お変わりありませんか。
さて、この度これまでにもインスタグラムやHPブログでご紹介してきました niPGT-A (niPER) ですが、定額費用内でお受けいただけるようになります。
定額費用ならびに治療内容を再検討し、より多くの方々にご満足いただけるような内容と致しました。
流産経験がある方や、年齢の高い方は、妊娠が成立しても日々不安の中生活をしていらっしゃいます。
妊娠10週以降にNIPT(非侵襲性出生前検査)を受ける方の割合も増加しています。
そのような状況下、妊娠成立後に少しでも安心して毎日を送っていいただけるよう、今回、niPGT-Aをご提案いたします。
もちろん、強制ではございませんのでご希望されない方は、ぜひお申し出ください。
niPGT-Aは胚盤胞まで育った胚の培養液を検査することで、その胚の染色体の数が正常かどうか(トリソミーやモノソミーでないか)を調べる検査です。
niPGT-A検査の最大の利点は、
1.胚から直接細胞を取らないので、胚への侵襲が無いこと
2.発育の遅い胚や、見た目のグレードが低いためにバイオプシーができない(負担になる)胚にも検査ができること
3.TE(胎盤になる部分)ではなくICM(赤ちゃんになる部分)の情報も得られること
です。
詳細は、近日中にインスタグラムやHPでご紹介いたします。
ご覧の上、ぜひご検討下さい。
ご不明な点はご遠慮なくお問い合わせください。
皆さん、こんにちは。
今回は、HP およびインスタグラムでご案内しています、非侵襲的な着床前胚の染色体検査(niPGT-A)についてお話しします。
この方法は、受精卵(胚)から細胞を取るのではなく、その胚を培養した培養液を用いて、染色体の数的異常がないかどうかを調べ る方法です(当院 HP、niPER (niPGT) 参照)。染色体の本数が正常であるかどうかをスコアで表して、移植する胚の順位をつけるという点から、当院では「移植胚の着床能優先順位づけ(niPER)」とも呼んでいますが、niPGT-A と同じです。
当院では、治療経験のある方が多いのですが、流産経験のある方、年齢の高い方、の割合も高くなっています。最近、産科へ転院された方々から、その後、非侵襲的出生前検査(NIPT) を受けたというお話を伺う度に、妊娠成立後もずっと心配していらしたのだなあ、と申し訳ない気持ちでした。
その不安を軽減できるようにと、当院では niPGT-A へ向けて準備をしてきました。様々なグレードの胚(胚盤胞)について、胚全体の結果と培養液による検査結果は100%一致し、本法が信頼できるものであると判断しています。大切なのは、培養液に不純なDNAが混入しないよう細心の注意を払うなど、通常の培養業務とは異なる分子生物学的な知識と技術が必要になることです。施設によるこの差が、本法が不安定であると言われる要因だと考えています。この点については、私(後藤)の分子生物学的研究者としての背景から、非常に高い精度の結果を保証いたします。
niPGT は着床や、流産しないことを保証するものではありませんが、少しでも安心して妊娠に臨んでいただくことができると思います。また、複数の採卵によって胚を貯める場合にも、どの胚から移植するかを考える上で役立てていただけます。
皆さま、こんにちは。だんだんに日が伸びて少しずつ春の気配を感じるようになりました。
開院から9年半、皆さまに「寄り添う」ということをずっと言い続けてきました。以前のブログやHP等でも何度かそのことに触れてきました。しかし、あらためてこれまでの人生や院長としての月日を振り返ってみると、患者さんに限らず、スタッフや周囲の方々に対しても本当に心から寄り添えていただろうか、と不安になることがあります。患者さんが転院されたり、スタッフが退職したりした経緯を一つひとつ思い返してみると、患者さんの気持ちや置かれた環境を理解せず、自分の価値観を押し付けていたのではないだろうか。もっと相手の立場に立って話を聞くべきだった、聞いていたら違った結果になったのではないか、と思われることが多々あります。以前に「裸の王様」だといわれたことがありますが、そうなのかもしれません。着床前診断(PGT-A)や付加的検査(add-ons)について消極的な意見を書いたりしたことも、一個人の意見としてなら許されるかもしれませんが、不妊で悩む患者さんを前にして、医療従事者、一クリニックの院長の発言としては適切ではなかったと思われますし、気を悪くされた方もいらっしゃったかと思います。お詫び申し上げます。自分の経験から、患者さんに妊娠していただくためにベストな方法をお示ししたいという思いは誰にも負けないつもりですし、経験に基づいてご提案をしているのですが、独りよがりだったのかもしれません。
「シンプルで医学的に効果の証明された治療を」とも言っています。これも、皆さまの妊娠を願う切な思いを汲んでいないのかもしれません。治療が思うように進まないときに、少しでも原因を知る可能性があるならできる検査をしてみたいと思われるでしょうし、納得してその後の治療を考えることもできるでしょう。卵巣刺激にしても、高刺激を第一選択にしていますが、低刺激や中刺激をトライしてみることもありですよね。トライしてみてその結果で判断すればよいことです。寄り添うと言いながら、皆さまに窮屈な思いをさせてしまったのかもしれません。ブレないという意味をはき違えていたのでしょう。見た目の方法ではなく、その患者さんにとって何がベストかを思い、その方の希望をお聞きして、常に一緒に考える、その姿勢がブレないこと、寄り添うことですね。思いが至らず申し訳ありません。
医師としてもっと人と社会の役に立ちたい、これまで培った経験をひとりでも多くの方に役立てたい、と日々思っています。ずっと前のブログに、今では死語のような「滅私奉公」の気持ちで仕事をしたいということを書きました。その気持ちは今も変わりませんが、今の私は単に「頑固」になってしまっていたのかもしれません。古い価値観に縛られて、皆さんの気持ちから離れてしまい、また「裸の王様」になってしまいつつあったのかもしれません。
今一度、自身の驕りを反省し、「人として」、「医師として」原点に戻り、初心に返って、患者さんと向き合い、横浜HARTクリニックのスタッフと共にベストな治療をさせていただけるよう努力致します。横浜HARTクリニックを選んでよかったと言っていただけるよう精進して参ります。
皆さん、こんにちは。
2023年もあと3日になりました。今年、当院にご通院いただいた方、お問い合わせいただいた方、凍結受精卵の保存期間延長手続きをいただいた方、元気な顔を見せにクリニックにお寄りいただいた方、皆さんありがとうございました。スタッフ一同、心から感謝申し上げます。
私達、横浜HARTクリニックは来年10周年を迎えます。この10年間には、当然のことながらさまざまなことがありました。その中で私たちが10年間変わらず守り続けてきたことがあります。それは、患者さん一人ひとりと本気で向き合い、一緒に考え苦しんで、最善の解決策を見出すことです。患者さんの思いや心の揺らぎを尊重し、今何が出来るかをリアルタイムに考える。物言わぬ卵子、精子、受精卵に思いを馳せて、1%でも妊娠の可能性を上げる努力、手間を惜しまない。そういう治療体験を提供し続けてきました。患者さんに治療を無理強いすることなく、また患者さんがエビデンスの無い情報に振り回されて疲れたり、治療をあきらめてしまったりすることの無いよう、十分な時間を取って治療を進めるにはどうしても自費診療でなければならないのです。
横浜HARTクリニックが誇る妊娠率の高さには理由があります。①看護力、②卵巣刺激、③顕微授精、④胚移植です。
①看護力は、看護師長平良さんの人間力です。治療を通して皆さんを本気で受け止めてくれます。医療スタッフは患者さんを患者さんとして対応しがちですが、どちらも同じ人間です。ただ、たまたまスタッフ、患者さんという役割が違うだけなのです。特に不妊治療では、身体的な負担だけではなく、精神的な負担や、配偶者、親との関係など、さまざまなことが関与していて、それを話せる存在が看護師なのです。ですから、信頼できるクリニックには、しっかりとした看護力が欠かせません(インスタグラムに平良さんからの動画メッセージがありますのでご覧ください。またジネコにインタビュー記事がありますので、そちらもご覧ください)。
②卵巣刺激は、医学的根拠に基づいて、そして安全に行わなければ効果がありません。卵巣予備能力が平均的な(AMHの数値が低過ぎない)方には、低刺激や中刺激ではなく高刺激が有効です。OHSSに注意しながらも、できるだけ1回の採卵で結果が得られるように刺激法を選択しています。
③顕微授精は、当院では敢えてPIEZOを行っていません。通常の顕微授精の方が、精子を注入した際の卵細胞内カルシウム濃度の上昇が有効で、卵子の活性化がしっかりと起きるからです。したがって、人工的な卵子活性化をする必要がありません。一方、卵子が変性しないよう、PIEZOに比べれば技術が必要です。精子の選別には生理的な方法として、ヒアルロン酸に結合する精子を用いた PICSI を実施して効果を得ています。
④胚移植は卵巣刺激から始まる、採卵、媒精、培養、凍結、融解に至る集大成のステップです。肉眼では見えない胚を子宮の中にきちんと戻すことが全てです。お腹から超音波で確認しながら行うこともありますし、子宮後屈の方には、普段外来で診ている画像を記憶して、指先の感覚を頼りに行う(クリニカルタッチといいます)こともあります。また、子宮内膜に不妊原因がありそうな方には、テーラーメイドな準備を行います。
⑤もう一つ、当院では niPGT-A という着床前検査を行っています。私は、受精卵を傷つけること、ダウン症など特定の染色体異常を排除することに抵抗があるため、PGT-Aに積極的ではないと以前に書きました。しかし、胚に触れることなく、培養後の培養液を調べることで、ダウン症のように特定の染色体についての情報を得ることなく、染色体正常な胚を選べることからこの方法を用いています。これを非侵襲的(non-invasive、略して ni と書きます)PGT-A といい、私は個人的に niPER (移植胚優先順位付け)と呼んでいます。簡単そうに見えますが、TEバイオプシーよりもセンスと技術が必要です。
当院は、日本産科婦人科学会にPGT-A実施施設として登録はしていませんが、niPGT-AはPGT-Aとは全く別のものであり、遺伝学と着床前検査に30年以上の経験を持つ後藤が丁寧に説明致します(当院のインスタグラムもご参照ください)。
どんなに見た目がきれいな受精卵でも着床しないことはよくありますし、逆に難しいかなと思う受精卵が元気な赤ちゃんになることもあります。日々の臨床は教科書に書いてあるようにすんなりと進むのではありません。検査結果や数値にとらわれることなく、目の前の患者さんと受精卵を深く診て、自分たちの知識、経験と照らし合わせて、患者さんの希望も聞きながら、最大限の結果を生み出せるよう努力することが大切です。
良い卵と精子があれば何とかなります。私たちはずっと「最後の砦」になりたいという思いで診療してきました。横浜HARTでダメならあきらめると思っていただけるような治療を提供致しますので、真剣に苦しんでいらっしゃる方は、ぜひご相談ください。
皆さん、こんにちは。
前回のブログ(2023年10月8日、「目に見えない大切なもの」)で、私たちが日々の診療の中で大切にしていることについて書きました。そして、それが単なるホスピタリティーではなく、実際に結果に結びつく、人を診る医療行為であることに触れました。
実は、「大切なものが目に見えない」ということを初めて意識したのは、小学生の時、皆さんも良くご存じの「星の王子さま」(サン=テグジュペリ作、内藤濯訳、岩波書店、1972年)を読んだ時です。第21章で王子さまは一匹のキツネと出会うのですが、キツネは孤独な王子さまに、ただの通りすがりの関係が世界中でかけがえのない存在になる<仲良くなる>ために必要なことを教えてくれます。時間を共有すること、お互いの距離間を大切にすること、ルールを決めて従うこと、そして仲良くなった後には責任が生じること。
さらに、キツネは王子さまと仲良くなったことで、今まで興味がなかった麦の金色の穂を見るたびに、王子さまの金色の髪を思い出して幸せな気持ちになれると言います。離れていてもずっと心の中にいて、その人を幸せにすることができるのですね。
王子さまが旅を続けるためにキツネと別れる時、キツネは王子さまに、おみやげとしてひとつの秘密を伝えます。「さっきの秘密をいおうかね。なに、なんでもないことだよ。心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」(原文のまま)。
今の時代に、こういったことはもう理想でしかないのかもしれません。でも、横浜HARTクリニックで、私たちが患者さんに体感していただきたいことは、上に書いた通りのことなのです。ご夫婦、ご家族がいつまでも幸せに、折に触れて横浜HARTを思い出していただいたときに温かい気持ちになっていただければ本望です。少しでも多くのご夫婦に私たちのことを知っていただきたいです。
皆さん、こんにちは。
ようやく涼しくなってきましたね。過ごしやすくなりましたが、猛暑の疲れが出る時期でもあり、コロナに加えてインフルエンザも流行っていますので、引き続き体調には気を付けましょう。
開業時のHP(2014年、当時は文字が多い時代でした)のごあいさつに、「出産という結果につながっても、残念ながら出産という願いが叶わなくても、横浜HARTクリニックが最後のクリニックであって欲しいと思います」と書きました。この思いはもちろん今も変わりません。高い医療技術を提供するのはもちろんですが、それだけではなく、患者さん一人ひとりの気持ちを大切に、悔いのない治療を全力でサポートしたいという思いです。
当院を受診される方の多くは治療経験がおありです。以前にタイミング指導や人工授精を受けていたけれども諸事情で中断した方や、体外受精を何回もトライした方など。特に後者の方では、先進医療と呼ばれる検査や処置(ERA、タイムラプス、子宮内フローラ、2段階移植など)も一通りされていて、今後どうしていいかわからないという思いで受診されます。
そんな時、今更と思われるかもしれませんが、シンプルに基本に忠実な治療をご提案しています。何か特別なことをトライするわけではなく、一つ一つのステップを丁寧に確実に実施して、その足し算あるいは掛け算が結果につながるようにするのです。卵巣刺激は強すぎても弱すぎても良くありません。採卵は痛みなく安全に実施しなければいけません。媒精(授精)、胚の培養・凍結・融解では胚にできるだけストレスがかからないようにしなければなりません。胚移植は優しく短時間に行わなければいけません。子宮内膜の調整はその方に適した方法を選ばなくてはいけません。これらのどのステップも普段の診察の際にどれだけ集中して情報を集めるかにかかっています。
そのようなシンプルな治療方針が、転院前よりも良い結果につながる方が多いのは、得られる卵子の質が良いからで、その理由は私たちに対する「信頼」だと考えています。信頼は「安心感」につながり、安心して通うことは「ストレスの軽減」となり、緊張感が取れます。心身がリラックスすることで、血流を介して卵巣の緊張もほぐれ、良い卵子が得られるのではないでしょうか。信頼関係を築くためには時間を共有することです。お一人の予約枠に約30分の時間をお取りしているのもそのためです。さらに、診察の都度、「いくらかかるのだろう」という費用の不安をなくすため、定額費用を導入しています。
先日、ESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)から、「付加的な検査、処置(add-ons)」についてのレビューが発表されました。タイムラプス、SEET法、子宮内膜スクラッチ、PGT-Aなど42項目について検討した結果、1項目(ヒアルロン酸入りの胚移植培養液)を除いて、全てその有効性、安全性に関するデータが不充分なため実施を推奨しないと結論しています。また同じくESHREからの、原因不明不妊症についてのガイドラインでは、心理学的なサポートを有効であると強く推奨しています。
私たちは、何もやっていないのではなくて、目に見えない大切なものを心を込めて提供しているのです。初診から終診までを通じた「治療体験」として提供します。それが妊娠の可能性を高めると信じているからです。「不妊治療なんてこんなもの」とあきらめている方はぜひ一度ご相談ください。一緒に可能性を考えてみましょう。
皆さん、こんにちは。暑いですね。
今月7日、開院9周年を迎えました。ご通院いただいた方々には心より感謝申し上げます。また、日々の診療を支えていただいた関係者の方々にも厚くお礼申しあげます。
振り返れば、当然のことながら様々なことがありましたが、直近ではやはり卵子提供と体外受精の保険適用でしょうか。卵子提供は私達自らトライしたことであり、保険適用は期せずして生じた変化です。
卵子提供は、約2年にわたって、誠実にこつこつと取り組んだプログラムです。平良看護師長にはコーディネーターとして本当に根気強く頑張ってもらいました。日本国内で無償提供卵子による不妊治療が根付くかどうかを念頭に臨んだ取り組みでしたが、多くのドナーおよびレシピエント希望の方達とかかわる中で、さまざまな課題や問題点が浮き彫りになり、検討の末、今年初めに当院での卵子提供プログラムを終了することとしました。このことについては、今年5月29日付の平良看護師長のブログに詳しく記されていますのでご参照ください。
次いで、2022年4月からの体外受精への保険適用についてです。この件に関しては、私の考えをいろいろなところに書いてきました。保険診療を行うか、自費診療を継続するか、思案して院内で検討した結果、自費診療のみを選択して、今日まできました。その理由としては大きく2つあります。
1つ目は、不妊治療、特に体外受精を単に技術的な治療とは考えていないということです。採卵して、受精卵を移植すればよいというわけではなくて、不妊というクライシスに直面したご夫婦をトータルにサポートしたいと考えているからです。きちんと話を聞き、可能な限り不妊の原因を推測して説明する。そして、その原因に対してどんな治療法があるか(ないか)を一緒に考えていただく。十分に納得していただいた上で治療を始めていただくようにしています。このプロセスは、治療を継続するうえでとても重要で、時間を要するものです。保険診療では、この点が考慮されていないのです。
2つ目は、不妊の原因が卵子にある方が多いことです。すなわち、どの生理周期でも良い卵子が育つとは限らないのです。従って、採卵周期に選んだ生理周期にこそ貴重な良い卵子が育つかもしれないと思えば、保険診療の制約(超音波の回数や使用できる薬剤)があってはベストな治療が行えない可能性が出てきます。もちろん結果を確約はできませんが、それでも上記1つ目のプロセスで培った安心感の中でお互いに悔いのない治療行うことに意味があると思っています。
卵子提供にしても、自費診療にしても、いつも正しいことを行いたいと思ってやってきました。医学的にはもちろんのこと、倫理的にも、社会的にも、他の人から見て正しいと判断されるような診療を心がけてきました。治療に望むご夫婦と生まれてくる子供たちが幸せになれるよう、お手伝いを続けられたらなあ、と心から思います。時代が変わっても、この思いは変わりません。
皆さん、こんにちは。新年度を迎えて、お忙しい日々をお過ごしのことかと思います。まだ寒暖の差が大きいですから、お互い体調には気をつけましょう。
さて今回は、複数ある胚を移植する際に、どの胚から移植するか(優先順位付け)について考えてみます。
そもそも自然周期で採卵する場合は、原則1個しか卵子が得られませんから、得られる胚も1個(または0個)で、順位付けは必要ありません。しかし、自然周期では採卵あたりの妊娠率が低いので、当院では、卵巣刺激によって複数の卵子を採取し、複数の胚を得て、それらの胚に移植の順番をつけることになります。
移植胚の順位付けは、今も昔ももっとも一般的な方法は、形態(見た目)によるものです。現在は胚盤胞まで育てて評価することが多いです。ガードナー分類が広く用いられていますが、100%客観的に評価することは難しく、細胞の透明度であったり、フラグメントの量であったりと、基準にない観察所見や、患者さんの臨床背景なども加味して、移植の順位付けを行います。
しかし、どんなに綺麗な受精卵でも着床しないことも多く、その理由の一つに染色体の異常があることから、PGT-Aが行われるようになりました。胚盤胞まで培養することとあいまって、今は栄養外胚葉(TE)を採取して調べる方法が一般的です。これは、100個ほどあるTE細胞の中の5-10個程度を採取して調べるため、TE全体を表していない可能性があります。さらに、TEは将来胎盤になる部分であり、赤ちゃんになる細胞ではありません(その部分は内細胞塊、ICM)。
従って、TE生検(バイオプシー)では、偽陽性(ICMは正常なのに、TEは異常とでる)のために移植されずに廃棄されてしまう胚が生じることがあります。また逆に、偽陰性(ICMは異常なのに、TEは正常とでる)のために移植されることもあります。
さらに、PGT-Aによって正常胚と判断された胚を移植しても、出産率は50%と、形態による評価(順位付け)とさほど大きくは変わりません。上に述べたような、偽陰性によるものに加えて、生検(バイオプシー)による胚へのダメージが大きいと考えられます。
そこで、胚に侵襲を加えない評価法として、受精卵が培養液中に放出した物質を調べる方法があります。DNA、RNA、蛋白質がありますが、現時点ではDNAが一番解析されています。培養液中に存在するDNAが胚盤胞のどの細胞に由来するかはわかっていませんが、おそらく全体から放出されると考えられています。つまり、TE生検で得られる5-10個の細胞よりは、胚盤胞全体の状態を表している可能性があります。また、DNAの解析をあまり深く行わずに結果をパターンとして評価すれば、個々の胚の遺伝情報を扱うことにはならないでしょう。
DNAにせよ、RNA、蛋白質にせよ、培養液中にあるものを用いて胚を評価し、移植の優先順位をつけることを「非侵襲的な胚の優先順位付け」(non-invasive preimplantation embryo ranking; niPER)と呼んではどうでしょうか。
皆さん、こんにちは。
今回はこれまでにも何度か書いてきましたが、日々の診療に対する想いをつづります。
私は2014年7月に横浜HARTクリニックを開院しました。その前は12年間、東京HARTクリニックに勤務しました。その間私がずっと変わらず願ってきたことは、不妊という人生の大きな試練に悩む患者さんが、その試練ときちんと向き合って、自ら考えて答えを出せるように、医師として、一人の人間として、関わるということです。もし、最終的に妊娠に至らなかったとしても、「このクリニックに出会えて良かった」、「このクリニックだから通院できた」と言っていただければ、それは私達スタッフにとって最高の褒め言葉だと思っています。
不妊の悩みは深く、自分自身のものとしての悩みにとどまらず、配偶者や親との関わりにもつながることがあります。特に治療が体外受精まで来ると、身体的負担に加えて、精神的なストレスは相当大きなものになります。従って、医師や看護師の精神的なサポートが重要になりますが、慌ただしい外来の状況ではとても実施することができません。
ですから、それぞれの患者さんときちんと関わる(ラポールを築く)ためには、一か月の採卵人数は約20人と決めて開院しました。それに基づいて治療費も決まります。個々の技術(採卵、移植など)にそれぞれ費用はありますが、そこには初診でいらしてから、治療が終了するまでの通院を精神的にもサポートするトータルな費用が含まれています。
開院間もない頃は、体外受精の患者さん以外にも、タイミング指導の方、人工授精の方もいらっしゃいましたので、外来で2時間、3時間お待たせすることもよくありました。その時の反省から、3年ほど前からは体外受精の患者さんのみを拝見して、待ち時間がほとんどない、すこしでもストレスの少ない環境作りをしています。
昨年4月からの保険適応に伴って、体外受精にも保険点数がつきました。患者さんにとって、3割負担はとても良いことなのですが、処置(技術)だけを切り離して保険点数化され、精神的サポートは考慮されていない(時間をかけて患者さんに説明しても費用が発生しない)ところに問題があります。つまり、保険診療を行うには、時間をかけて説明するよりも、数多くの患者さんを採卵・移植する必要が生じるのです。
転院されてくる患者さんの中には、体外受精を何回か受けているのに、ほとんど体外受精についての知識がない方もいます。そのような場合、あらためてそれまでの治療を振り返って、どのような治療をしてきたのか、なぜ結果が出なかったのか、今後どのような治療の方法があるのか、などを一緒に考えて説明します。「納得していただけるまで丁寧に説明をすること」は、8つある当院の診療理念の一つです。
当院では、体外受精で妊娠する方の65%は、1回目の採卵で得られた受精卵で妊娠しています。安心して落ち着いて治療に望んでいただけるよう、私達は全力でサポートします。治療のペースは皆さんが決めていいのです。疲れたら休みましょう。悩む時や決断する必要のある時はいつもより長く相談の時間をとりましょう。最終ゴールがどこであっても、私達は皆さんに伴走します。
皆さん、こんにちは。ようやく暖かくなってきましたが、花粉症を持つ人にはつらい時期になりましたね。私も点鼻薬と飲み薬で何とかしのいでいますが、今年はかなり多くの花粉が飛ぶそうですから、お互い気をつけて生活しましょう。
さて、今回は「定額費用」の現状についてご説明します。当院では全て自費診療ですが、昨年2022年11月から採卵周期と凍結胚移植周期に定額費用制度を導入しており(詳しくはHP 「費用について」をご覧ください)、好評をいただいています。採卵周期では、採卵前に8-10日間卵巣刺激を行って複数の卵胞(卵子)を育てますが、それに必要な注射や超音波診察、採卵(局所または静脈麻酔)、胚培養全てを含めて定額の440,000円としました。定額制にした一番の理由は、その治療周期がベストな結果につながるよう、必要と思われることを費用の心配なく安心して受けていいただきたいからです。卵巣刺激は簡単なようで実は奥が深いものです。卵胞の発育速度はまちまちでサイズは不揃いですから、どのタイミングで採卵するかを決めるには、きめの細かな診察が必要です。時期が早すぎれば未熟な卵子が多くなりますし、遅すぎれば過熟な卵子が多くなったり、採卵までに排卵してしまったりします。また、刺激注射に反応が良すぎる方(例えば、多嚢胞性卵巣の方や、AMHの値が高い方)は卵巣過剰刺激症候群になるリスクが高いですから、こまめな診察を必要とします。つまり、診察回数に制限がある保険診療では、ベストな結果にならなかったり、合併症を引き起こしたりする可能性があります。
さらに、定額費用440,000円には胚1個の凍結費用も含まれますから、たとえ胚の評価(グレード)が低かったとしても、その胚が唯一の胚盤胞であれば、費用のことは気にせず凍結していただくことができます。
私達の目指すものは、できるだけ1回の採卵で妊娠に至る卵子を得ることです。それを安全に、ストレスなく(少なく)達成していただけるように、最善を尽くします。