ブログ・コラム
Blog・Column
Blog・Column
皆さん、こんにちは。寒く乾燥した日が続いていますが、いかがお過ごしですか?
皆さんがそれぞれの思いで新しい年をお迎えになったことと思います。2019年もどうぞよろしくお願いします。
今年の7月に、横浜HARTクリニックは開院から5年を迎えます。1年目、3年目、5年目が節目と思いながら日々診療をしてきました。5年目は数ある不妊治療施設の中で横浜HARTクリニックらしさが出てくればいいと思っていましたので、その目標には近づいていると思います。また、ホームページのリニューアルや、リース機器の見直しなどハード面での目標も一つ一つ達成していきたいと思っています。
近年不妊治療がメディアに取り上げられることも多くなりました。様々な雑誌や書籍も出版され、インターネット上にはいろいろな意見が溢れています。それらの中には矛盾するものもあり、丁寧に読む人ほど混乱し不安になるのではないでしょうか?
私は不妊治療は本来シンプルなものであると思っています。通常、夫婦が1-2年の間、排卵日を意識することなく週に2-3回の性行為を続けていると、80%くらいが妊娠に至ると言われています(しかし、この割合は女性の年齢が30代半ばくらいまでで、30代後半以降ではもっと低いと考えた方がいいでしょう)。従って、20%、5組の夫婦に1組の割合で不妊治療施設を訪れることになります。
外来の検査で原因がはっきりすると思っている方が多いですが、外来の検査で調べられるものは限られていて、原因を特定できる夫婦は10-20%程度です。本当に知りたい卵子や精子の質、卵管の機能(詰まっていないかだけではなく卵子をピックアップできるか)、着床能力などを外来検査で調べることはできません。従って、「もうこれ以上性行為を続けていても妊娠するとは思えない」と感じたら、検査結果によらず治療を進めることになります。その治療法として何が良いかは、それぞれの方で異なりますが、通常は3-4回人工授精を行った後に体外受精へ進むことになります。
体外受精も現在ではかなり一般的な治療となり、丁寧に患者さんを見ていけば安全で有効な治療法です。そして、上述したように本来「シンプル」なものです。卵子を採取して体外に取り出し、精子と一晩一緒にすることで受精をさせ、できた受精卵を子宮に移植します。良い受精卵が複数あれば将来の移植のために凍結保存することも可能です。卵子と精子が物理的に出会えないことだけが不妊の原因であれば、大半の夫婦が1回の採卵で妊娠に至りますが、いい卵子といい精子がなければ、どんなにベストを尽くしても体外受精はうまくいきません。そして役割の上からも数の上からも、特にいい卵子が得られるかどうかにかかっています。
では「いい卵子」はどのようにしたら得られるのでしょうか?この質問はほぼ毎日患者さんから受けますが、一番知りたいことですよね。残念ながら、エビデンスのある解決法はなく、単純に確率によるところが大きいです。タイミング性交でも1年間は頑張るように言われるのは、いい卵子が育つ生理周期は頻度の高い方でも3周期に1回、低ければそれこそ10周期、1年に1回とも考えられるからです。
もちろん刺激周期では、刺激法を変えたり、使用する注射薬剤を変えたりしますが、主に副作用を軽減したり採卵できる卵子数を増やしたりすることが目的で、卵子の質を大きく変えるものではありません。医師から何か新しいことを提案されたり、あるいは自ら試してみたいと思うことがあって、それを行った治療周期に良い卵子が得られて妊娠したという方も多いでしょうが、本当にそのことが効を奏したのか、たまたまその周期にいい卵子が得られたのか、因果関係を証明することは簡単ではありません。私は、どちらかと言うと経験上、単純によい周期にめぐり会っていい卵子が得られた可能性が高いと考えていますが、結果が良ければ因果関係を証明することにもあまり意味はありません。いずれにしても、その生理周期に採卵をしたことが、その方の運命なんだなあ、とその度に思います。
いい卵子がいつ得られるのかはっきりとした答えのない中治療を続けていくことは大変なことだと思います。しかし、自然妊娠ということ自体が持つ不確定な要素を理解して、不妊治療がその上に立つものであると認識していただければ、いい意味である程度淡々と治療と向き合うことが出来るかもしれません。
東京大学医学部卒業
産婦人科研修医(東大附属病院分院、都立築地産院、国立習志野病院)
アメリカウィスコンシン大学高度生殖医療施設
イギリスロンドン大学大学院 医学博士(生殖遺伝学)
オーストラリアモナッシュ大学体外受精施設
東京HARTクリニック副院長
横浜HARTクリニック開業
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医