「不妊(症)とは」にも書きましたが、これ以上性交を続けていても妊娠する気がしない、と思った時が不妊治療専門クリニックを受診する時期です。不妊治療には必ずしも決まった進め方があるわけではありませんが、通常は人工授精、体外受精へと進みます。人工授精は比較的敷居が低い治療として広く行われてきましたが、マスターベーションで採取した精液中の運動精子の10%程度しか回収できませんし、女性側の原因を解決することはできないので、あまり治療効果の高い方法ではありません。通常は3-4回行って妊娠に至らなければ体外受精へ進みますが、男性因子、卵管因子、女性年齢が40歳以上等の原因の場合は、人工授精をせずに体外受精へ進むことも考慮します。
人工授精で妊娠しない場合は、体外受精へ進みます。体外受精を行うことで、受精から受精卵(胚)発育、子宮の着床環境までそれぞれを細かく見ることができ、真の不妊原因(精子、卵子、卵管、子宮)がわかります。それだけ治療効果が高い方法で、妊娠できる方の70%が1回目の体外受精で妊娠します(「当院の実績」参照)。しかし、真の原因が卵子の質にあり、体外受精でも解決が難しいことがわかってショックを受ける方もいます。1日でも早く妊娠したいとの思いから治療を急がれる方もいらっしゃいますが、当院では体外受精の必要性、および体外受精の効果と限界をきちんと理解していただいてから治療を受けていただくようにしていますので、ご希望の生理周期に治療を受けていただけない場合もあります。
不妊治療のゴールは目の前のご夫婦が妊娠、出産することだけではありません。ご夫婦がどれだけ子供を望み、どのような治療の末に授かったのかを、生まれてくる子供にきちんと話せるように、そして生まれた子供が、このお父さん、お母さんのもとに生まれて良かったと思えるように、お手伝いすることも私達の重要な仕事だと思っています。
不妊症の原因について
世界保健機構(WHO)の統計では、不妊症の原因が女性側のみ(41%)、男性側のみ(24%)、男女双方(24%)、原因不明11%、となっており、不妊症夫婦の約半数は男性にも原因があることがわかっています。
女性側の原因では、卵子の老化、卵管の異常、排卵障害、ホルモン異常、クラミジア感染症、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮奇形、子宮頚管粘液の異常、子宮内膜の異常、抗精子抗体、等があります。
男性側の原因では、精子の数や運動性等の異常、性機能の問題(性交障害)等があります。精子数等の異常の原因として、ホルモン異常、精索静脈瘤、精路通過障害、精巣腫瘍等が見つかることがあります。
女性側の主な原因
- 卵巣:卵巣機能不全
- 卵管:狭窄(きょうさく)癒着、閉鎖、水腫(すいしゅ)
- 子宮:筋腫(きんしゅ)、奇形、発育不全
- 内分泌ホルモン異常
- 子宮内膜症
- その他
男性側の主な原因
- 精巣(睾丸):無精子症
- 精路閉鎖
- 性交障害
- 内分泌ホルモン異常
- その他
不妊(症)とは、「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合」(日本産科婦人科学会編、産科婦人科用語集改訂第4版)と定義され、「その一定期間については1年というのが一般的である」とされています。
しかし、妊娠に至らない原因はご夫婦ごとに異なります。例えば、左右の卵管が両方つまっている場合や精子の運動率が非常に低い場合には自然妊娠は難しく、体外受精や顕微授精が必要になりますから、1年間性交を続けることは結果的に時間のロスになってしまいます。ですから、妊娠に至らない期間にこだわる必要はありません。ご夫婦が「このまま性交を続けていて妊娠するのだろうか?」と思う時が専門医に相談する時期です。
また、図に示したように、女性の年齢が高くなるにつれて妊娠の可能性が低くなりますから、いつまでも検査を受けずにいると治療できる時期を逸してしまうかもしれません。35歳以上の女性であれば1年間、40歳以上の女性であれば半年間、積極的に性交を行っても妊娠に至らなければ、一度専門クリニックを受診して相談されることをお勧めします。男性側に原因があることも多いですから、できるだけご夫婦で一緒に受診するようにしましょう。