横浜HARTクリニック

〒221-0835 神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町3-32-13 第2安田ビル7階

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少し長くなりますが

皆さん、こんにちは。いかがお過ごしですか。

 

今年4月から体外受精が保険診療になり、皆さんそれぞれに頑張っていらっしゃることでしょうね。

 

当院では今年1月にHPのお知らせ欄で、4月以降も自費診療を継続することをお伝えしました。それにより、保険診療ができる施設へ転院された方もいらっしゃれば、自費診療であることをご理解いただいたうえで通院していただいている方もいらっしゃいます。前者の方々には、ご迷惑をおかけしたことについて心からお詫び申し上げます。後者の方々には、改めてお礼申し上げます。

 

さて、今回は私がどうしても自費診療を継続したい理由をお話しします。他施設でも、自費診療を行っているとは思いますが、おそらく保険診療と自費診療を選べるようになっているのでしょう。そして、保険か自費かを選択する場合、「保険診療であればここまでです」、「検査A、処置Bを加えるなら自費診療になります」というように、目に見える形での付加的な違いがあるので、その差がわかりやすいのだろうと思います。一方当院では、もともとシンプルな治療をしており(これは30年以上の臨床経験から、付加的な検査・処置をしても出産率は変わらないということに基づいています)、PGTもERAもEMMAもALICEもタイムラプス観察も行っていませんので、目に見える形で何かが違うというわけではありません。

 

では何が違うのかというと、これまでブログ等でも説明してきましたが、「患者さんの話をきちんと聞いて、医学的に正しいことを説明して、安心して治療を受けていただく」ことです。「話をしたって妊娠するわけではないでしょ」と思う方もいらっしゃることでしょう。確かにその通りです。しかし、「当院の実績」にも示している、妊娠に至るまでに必要な刺激周期による3回の採卵をやりきることは、身体的にも精神的にも大変で、治療開始前に丁寧に説明をしないとフェードアウトしてしまう方も少なくありません。従って、体外受精の効果と限界をきちんと理解していただいてから治療をスタートし、中期、長期目標を定めて、目の前の結果に一喜一憂し過ぎずに治療を進めていただくことが大切なのです。

 

クリニックの設備は粗末でも豪華でもなく、「待合室」ではその時の心の状態に従ってくつろげるように、「診察室」ではゆっくりと落ち着いて話せるように、「内診室」ではリラックスして診察を受けていただけるように、「処置室」では医師と話せなかった(話しにくかった)ことをナースと話せるように、「場」「空間」を意識した作りになっています。保険診療の点数には表れない、医療従事者と患者さんが、「人と人として」悩み、苦しみを共有できることにこだわっています。

 

私達が大切にしたいのは、不妊で悩むことになった患者さんご夫婦の人生に寄り添うこと、一歩進んではまた困難にぶつかり、「私はなんでこんなにつらい思いをしているのだろう」、「夫(妻)はどう考えているんだろう」「流産しないかと毎日毎日心配でつらい」「子供が生まれたら大丈夫かな」といったたくさんの不安や悩みを抱えながら治療に向き合う方々を心から応援したいと思っています。ですが、多くの患者さんを診察することはできません。一日に診察できる人数には限りがあります。妊娠、出産がゴールではありません。生まれてから、何十年にわたる子育てに覚悟を持って臨めるように、悔いのない不妊治療をサポートします。

 

言葉は悪いですが「手っ取り早く妊娠したい」という方には横浜HARTは認めていただけないと思います。何がどうつらいのかもわからないということでもいいのです。私も看護師長の平良さんも、そんな悩み全てを受け入れる準備ができています。安心して3回の採卵を目標に頑張っていただくこと、シンプルに頑張ること、それが妊娠への近道です。転院をお考えの方、治療の終結をお考えの方、最後の砦としてぜひ当院にご相談ください。

診療時間の変更にご協力ありがとうございました

こんにちは。いかがお過ごしですか?

明日3月21日をもって「まん延防止等重点措置」が終了することに伴い、3月22日より通常の診療時間に復帰します。長い間、診療時間の変更にご協力いただき、ありがとうございました。

 

最初の「緊急事態宣言」が出されてから約2年になります。今日までいくつかの新型コロナウィルス感染の波がありましたが、院内消毒を徹底し、患者さん同志の密を避け、スタッフも人の集まるところを避けるなどして、院内感染を起こしたり濃厚接触者を出したりすることなく診療を継続することができました。今後もまた感染の波がくると思われますが、各人がこの2年間に学んだ身の処し方で乗り越えていくことができることでしょう。

 

コロナ禍での恩恵も二つありました。一つは学会がWeb開催になったこと。開業するとなかなか学会に参加できなくなります。Web開催になることで、国内外の学会を期間中24時間いつでも視聴できます。さらに学会場であれば並行しているために聴講できない講演もWebであれば全て聴くことができます。最近は新型コロナウィルス感染が落ち着いてきたことで、学会場での現地開催とWeb開催のハイブリッドが増えてきましたが、今後もWeb開催はぜひ続けて欲しいものです。

 

もう一つは、教科書を読み直す時間ができたこと。遺伝学で学位を取得していますが、随分昔のことなるので、いつか最近の教科書を通読したいと思っていました。実際、非侵襲的出生前検査(non-invasive prenatal testing; NIPT)、着床前遺伝学的検査(preimplantation genetic testing; PGT)、遺伝カウンセリングの教科書を読むことができました。2003年にヒトのDNA配列が解読されてからの遺伝学的検査技術の進歩を改めて感じると共に、その技術そのものの限界について再確認し、それら検査結果を生殖医療、さらには社会の中でどう活用していくかという倫理的な問題について考えることができました。子供を産み育てるということが、愛情にあふれたごく自然な営みから、「選択」「排除」というデジタル的な行為にならないよう、常に意識していたいと思います。

刺激周期における費用についてお話します

皆さん、こんにちは。新型コロナウィルスは相変わらずオミクロン株を中心に広がっていますが、集団免疫獲得へ向けて通るべき道なのだと思います。当院も引き続き密を避け、消毒を徹底し、感染防止に努めていますので、今しばらくご協力ください。

 

 

さて、費用をどのように設定しているかについてはすでにお話ししましたので、今回は刺激周期採卵における費用について、私の考えをお話ししたいと思います。

 

 

まず、FSH/HMG 注射による卵巣刺激の一番の目的は、複数の卵胞を育てることです。それによって、できるだけ多くの卵子を採取し、妊娠に至る卵子を得る可能性を高めます。しかし、注射をすれば皆さんが同じように反応するわけではありません。年齢、体質、さらには周期差などにより、育つ卵胞の数はまちまちです。1個のこともあれば20個以上のこともあります。そして、刺激周期では特定の数、例えば3個とか5個だけの卵胞を育てることはできません。つまり、何個育つか(育ったか)は結果なのです。

 

 

次に、採取できた卵子の数が多ければ、それだけ妊娠しやすいというわけでもありません。取れた卵子のうちの何割が良い卵子と決まっているわけではありませんから、3個取れて妊娠する方もいれば、20個取れて妊娠しない方もいます。個々の卵子の力は治療周期による差が大きいのです。それが、3回の採卵を目途に頑張ってくださいという理由です。また卵子1個1個の力は年齢に大きく影響されますから、30歳の方の3個と、40歳の方の10個では、30歳の方の方が妊娠の可能性は高くなります。

 

 

さて、費用の話をしましょう。患者さんは、子供が欲しくて治療をしているのであって、多くの卵子が欲しいわけではありません。当然、卵胞数が多ければ採卵に時間がかかりますし、針の切れが悪くなるので途中で採卵針も交換することもあります。麻酔薬も2本使用することがあります。しかし、当院では追加費用をいただくことはしていません。施設によっては、得られた卵子の数によって、培養費用や顕微授精費用が異なるようですが、当院ではそれも全ての方が同額です。

 

 

一見不公平に見えますが、上に述べたように、取れた卵子の数は体外受精治療の一過程であり、私達(医療施設側)が決めた治療方針による結果なのです。私は治療周期全体をトータルに診て費用をいただいていますので、個々の過程の必要経費を考えることはしていません。

 

 

ART (Assisted Reproductive Technology) は通常「生殖補助医療」と訳されますが、正確には「補助生殖技術」というべきでしょう。もし体外受精(ARTといえば一般に体外受精を指します)は単なる「技術」であると考えるなら、個々の卵子に対する作業量に見合った費用をいただくのは合理的な考え方かもしれません。しかし、不妊という状況に悩み苦しんでいるご夫婦を全人的に診て、将来生まれてくる子供になる精子と卵子を大切に思えば、皆さんから治療周期全体を考えた同一費用をいただくことは決して不公平ではないと思います。

 

 

ご存じのように、不妊治療では心理的なサポート(結びつき、ラポール)が大切です。費用が安ければ続けられるというものではありません。費用が高くなるから育てる卵胞数を少なくするとか、5個卵子が採取できたら採卵を中止するとか、取れた卵子の一部だけに顕微授精をするとかということになったら、ベストな結果は得られません。今周期に治療をすると決めたら、最大限の効果が得られることをするべきで、費用面での細かな制約があってはいけません。

 

 

最後に、当院でも胚の凍結保存にかかる費用だけは容器ごとにいただいています。採卵周期の胚培養最終結果であり、凍結する胚盤胞の2個に1個(50%)は妊娠に至りますから、きちんと必要分をいただいています。

2022年もよろしくお願いします

皆さん、新年いかがお過ごしですか?

2022年、今年もよろしくお願い致します。

 

今年はどんな年になるのでしょうね?

 

新型コロナウィルス感染はまだ油断できませんが、世界の動向を見ていると、オミクロン株については、行動制限は行わず、ワクチンの再接種(ブースター)効果や集団免疫の獲得などによる共存を期待しているようです。マスクの着用や手洗い、密を避けることは引き続き必要ですが、少しずつでも通常の生活に戻れるのは嬉しいことです。

 

そして、皆さんが気になるのは体外受精の保険適用ですね。昨年末の時点では、女性の年齢や治療回数については言及されていますが、具体的に何に対して保険点数がいくらになるのかは全く不明です。前回のブログにも書いたように、不妊治療では精神的な側面が大きいですから、私達はそれぞれの方に適した全人的な治療を提供したいという思いで診療しています。治療ではできるだけシンプルに、安全に、受精卵に負担をかけないように、を心がけています。それが保険適用によって制約を受けるのかどうかが懸案です。

 

7年半前に開業したころは体外受精だけでなく、タイミング性交指導も行っていました。(何らかの病名をつければ)保険が適用可能な検査、診察もありましたが、全て自費診療を行っていました。その理由は、保険では実施できる回数や内容に制限があり、その方に合ったきめの細かな診療がしにくいからです。それでも「時間をとってきちんと説明してい欲しいから」という理由で、多くの方々に通院していただきました。もちろん、体外受精ではかかる金額がはるかに高くなりますが、自費でも通いたいと思っていただけるような、当院の理念に従った診療を継続していけることが理想です。

体外受精の費用と保険適応

皆さん、こんにちは。今年もあと2週間になりましたね。

 

今回は、体外受精の保険適用と関連して、体外受精の費用についてお話しします。

 

以前から、体外受精の費用はどのようにして決めているのか、なぜ施設によって費用が大きく違うのかという質問をいただきます。おそらく施設ごとのポリシーが反映されているのだと思いますが、私は、以下のようにして決めています。

 

体外受精治療は、1年を目途に通院していただくものだと思っています。そのためには、患者さんが安心して通えるように医療スタッフとの間に信頼関係(ラポール)を築くことが大切です。信頼関係は慌ただしい外来の中では築けません。プライバシーが保たれ、落ち着いて話ができる空間が必要です。その落ち着いた空間(豪華という意味ではありません)の中で患者さんの話をきちんと聞き、医学的に必要なこと、必要でないことを丁寧に説明します。そうなると、1日に診察できる患者さんの数は15人程度、1か月の採卵件数は20人程度になります。これらをもとに、家賃、人件費、必要機器や資材にかかる費用、スタッフの研修費用等を合わせた必要経費を賄うための体外受精費用が割り出されます。

 

ここで重要なことは、患者さんの話をよく聞き、納得してもらえるまで説明をするという、形には表れないけれども「人と人とがかかわりあう」医療として大切な時間が算入されていることです。横浜HARTクリニックに通院していただいている(いた)方にはご理解いただけると思いますが、この「空間と時間」が当院が大切にしているものの一つです。当院の妊娠率が高いのも、治療の効果と限界をきちんと理解した上で、採卵3回を目標に通院していただいているからだと思います。

 

単に、採卵、培養、移植というような個々の手技や処置、諸検査に対していくらくらという計算ではないのです。初診から治療の終了まで責任を持って診療することを考えて決めているのです。十分な説明もせずに採卵・移植を繰り返すことは不妊治療ではないと思って30年間やってきました。従って、体外受精治療に各項目一律いくらという費用を設定してしまうと、これまでに提供してきた診療はたぶんできなくなってしまいます。

 

2022年4月から適用されるといわれている保険診療を当院がするかどうか、できるかどうかは分かりません。

 

いかがお過ごしですか

皆さん、こんにちは。いかがお過ごしですか?

新型コロナウィルス感染者数が大きく減少し、一旦落ち着いたように見えますが、患者さんの中には、ワクチンを打たない/打てない方々もいらっしゃいますので、当院では院内感染予防対策を継続実施します。つきましては、皆さんの院内滞在時間が最短で済むよう、調整しますので、予約日時について引き続きご協力いただきますようお願い申しあげます。

 

話は変わりますが、私は開業時から横浜HARTクリニックは(レーシングカーの)F1チームでありたいと話しています。ご存じのようにF1では、時速300 kmを超えるスピードで走ります。チームの一人一人が日々鍛錬、訓練して、レースでは緊張の中チームワークを発揮し、その全てを信頼するドライバーがためらうことなくコーナーに突入します。レース途中のタイヤ交換では0.1秒を争い、ねじ1本少しでも緩んでいたらドライバーは命を落としてしまいます。勝負に勝つか負けるかには当然運もありますが、チームの全員がそれぞれにベストを尽くすことができ、チームとして安全に100%の仕事ができたのであれば、今回勝負に負けたとしても次のチャンスがあるはずです。

 

横浜HARTクリニックにあてはめれば、医者はチームオーナー、看護師は現場を仕切るチーム監督、培養士はメカニックでしょうか。そしてドライバーはもちろん患者さんです。

医者はチームオーナーとして、チームのメンバーが迷うことなく最高のパフォーマンスができるように、「場、空間」を調える役割です(力不足のことも多いですが)。

看護師はチーム監督として、各部署の仕事を把握してチームを統括し、ドライバーの身心の状況に合わせてレース運びを組み立てます。

培養士は、常に平常心で仕事に臨み、ドライバーに見えない車体の部品1個1個に細心の注意を払って、ドライバーがリタイアせずにフィニッシュできるように作業をします。

そして最後に、ドライバーとしての患者さん。数あるチームの中で、横浜HARTクリニックを選んでいただいた理由は何でしょうか?このチームとなら、このチームの車なら、安心してゴールまで走れそうだからと思っていただいたからであれば、私たちはとても嬉しいです。そして、1回目のレースが終わった時に、勝っても負けても、やはりもう1度このチームでレースに出たいと思っていただけるように私達は努力をします。いい信頼関係を築いて一緒に頑張りましょう。

WHO 精液検査マニュアルが改訂されました

こんにちは。いかがお過ごしですか?

 

さて、普段、卵子や受精卵のことを書くことが多いので、今回は精子についてお話しします。

 

世界中のほとんどの施設が、精液検査の基準としてWHOのマニュアルを使用していると思いますが、最近改訂され第6版が刊行されました。第5版の数値とほとんど変わりませんが、精液量1.4 ml、精子濃度1600万/ml、精子総数3900万個、運動率42% を基準とすることを提案しています。この意味を正しく理解する必要があります。

 

これらの数値は、妊娠を考えて12か月以内に自然妊娠したカップルの男性、約3500人について、2-7日間の禁欲期間後に行った精液検査に基づいています。3500人には、ヨーロッパ人、アメリカ人、アフリカ人、アジア人などが含まれます。上記の数値は、それぞれの項目について下位5%の人数が入る数値です。つまり、精液量が1.4 ml以下で妊娠したカップルは100人中5人ということです。他の項目、精子濃度1600万/ml、精子総数3900万個、運動率42% についても同様です。従って、この基準値(参考値)を満たしているから大丈夫とも言えませんし、たとえ基準値を下回っていても妊娠の可能性はあるということで、妊娠の可否を判断するものではありません。

 

ちなみに、3500人の半分(50%) の人が入る数値は、精液量3.0 ml以上、精子濃度6600万/ml以上、精子総数2億1000万個以上、運動率64%以上です。私は、これらの項目の中で、(運動)精子総数が大切だと思っています。

 

不妊の原因は男女両方にあることが多く、特に女性の年齢が高くなれば卵子の原因が大きくなりますから、あまり精液検査所見にこだわる必要はありません。検査はあくまで検査であり、結果を100%予測するものではありません。1年間頑張ってみて妊娠に至らなければクリニックを受診し、はっきりとした原因があればそれを治療し、なければ卵子と精子の力を総合的に判断して真の不妊原因を知る意味で、一度は体外受精をトライしてみることをお勧めします。

卵子提供について

皆さん、こんにちは。いかがお過ごしですか?

コロナウイルスによるCovid-19 も相変わらず猛威をふるい、豪雨による災害のニュースなどを見る度に心が痛み、一日一日を無事に過ごせることをとてもありがたく感じます。

 

さて、今日は卵子提供についてお話しましょう。

 

卵子提供という治療に最初に接したのは1993年、シカゴの体外受精施設へ留学した時です。

その後、2002年に帰国して、東京HARTクリニック勤務時代には、海外へ卵子提供による治療を受けに行く患者さんの子宮内膜準備のお手伝いをしたり、JISARTでの主に姉妹間の卵子提供に関して倫理委員を2年ほど務めたりして関わってきました。

 

そして、約2年ほど前から卵子提供支援団体OD-NETのマッチングを通じて、匿名の卵子ドナーからの卵子提供治療を実施しています。思った以上に卵子ドナーになりたいという方がいらっしゃいますが、実際に卵子提供まで進むのは希望者の25%程度です。電話での聞き取りの段階で不適になる方を含めればさらに減って10%位です。年齢が高いことや、卵巣予備能力が低いこと、時間的に通院が困難なこと等が主な理由です。また、卵子を提供することの意味、生まれてくる子の福祉や告知のことなどを説明して、こちらからお断りする場合もあります。

 

一方、レシピエント(卵子をもらう方)希望者はまだ少ないですが、こちらも実際に治療へと進む方は40%位です。辞退される方の多くは、改めて自分の年齢を考えた時に、無事に出産できるだろうか、子供が成人する時まで健康でいられるだろうか、様々な不安が生じたためです。

 

このように、ドナー、レシピエント共に卵子提供治療へ実際に進む方は多くありません。それでいいのです。ドナー希望者も、レシピエント夫婦も子供をこの世に送り出すことの責任をきちんと考え、覚悟を決め、生まれた場合には関与した全員が幸せになれることを確認した上で治療を進めるべきですから。

 

大事なことなので触れておきますが、当院で卵子提供治療をお受けする条件として、妊娠した際に、妊婦健診、分娩を引き受けてくれる施設を事前に確保することとしています。卵子提供による妊娠では、夫婦間の妊娠に比べて、出産時のリスクが高くなりますから、様々な状況に対応ができる施設から妊娠許可をもらうことが必用不可欠です。レシピエントが出産を希望する施設に、私が手紙を書いて、卵子提供によって妊娠した際に受け入れてもらえるかを伺っています。幸い、これまでに問い合わせた施設は全て受け入れ可能と返事をもらっています。

 

もう一点、匿名ドナーですから、匿名性を維持するためにドナーとレシピエントが接点を持たないよう非常に気を使います。電話予約から、治療のスケジュール管理、費用の支払い等、ドナー、レシピエント、OD-NET の3方向への連絡を全て、看護師長の平良さん一人にしてもらっています。コーディネーターとして窓口を一つにしておくことがとても重要です。通常の夫婦間の治療と同じ費用しかいただいていませんが、実際にかかる時間と気の使い方を考えると、2倍の料金をいただいてもいいと思っています。

 

卵子提供による不妊治療は日本でも受け入れられつつあると感じます。今後は、LGBT(Q)の方達も治療の場に登場してくることでしょう。大切なのは、時代が変化し、人々の意識が多様化する中で、生まれてくる子供の幸せを中心に、関与する人達がきちんと考えて進み責任を持つことです。

私がPGT-Aに積極的でない理由

「PGT-Aをやっていないのですか?」とよくご質問をいただくのですが、現時点では行っていません。理由は以下の3点です。

 

一つ目は、PGT-Aによって出産率が向上する、流産率が低下するという確実なエビデンスがまだ得られていないからです。

 

二つ目は、PGT-Aを行うために胚盤胞の栄養外胚葉(絨毛や胎盤になる部分)から5-10個の細胞を採取(生検、バイオプシー)しますが、それによる侵襲が大きいと思われるからです。絨毛や胎盤になる部分で胎児になる部分ではないから大丈夫と言われますが、絨毛の子宮内膜(脱落膜)への浸潤の仕方がその後の妊娠において、妊娠高血圧や胎児発育不全に関係すると考えられていますので、全く問題のない安全な手技とは言えないと思います。

さらに、染色体の本数が正常と判定された胚盤胞も、正常と判定されるためにわざわざバイオプシーのダメージを受けているわけです。胚はものを言いませんが、やはりせずに済むに越したことはありません。

 

三つ目は、21番染色体に関わることです。21番染色体が3本あるトリソミーの場合、その受精卵を移植して妊娠、出産に至ればダウン症の赤ちゃんが生まれます。PGT-Aによって移植前に21トリソミーであることがわかれば、ほとんどの患者さんはその胚を移植せず廃棄することを選択するでしょう。私はそのことにどうしても折り合いをつけられずにいるのです。これまで長くにわたって不妊診療をしてきた中で、何人かのダウン症の赤ちゃんが生まれました。その子供たちとそのご家族への思いから、どうしてもPGT-Aによって21トリソミー胚を選別することに抵抗があるのです。

 

PGTについては、これまでにもブログに書きました。2015年9月18日、2018年12月19日のブログも参照してください。

 

検査というものの恐ろしいところは、検査があるのにどうして受けないのかという、内的・外的圧力がかかることです。その検査が低侵襲なものであればあるほど受けないという選択をするための意志が必要になります。また遺伝学的な検査の場合、白黒つかない、予測しなかった検査結果がでることもあり、事前の遺伝カウンセリング、心構えが大切です。

子宮内膜日付診とERA

皆さん、こんにちは。

いかがお過ごしですか?コロナウィルスワクチン接種が始まりましたが、その効果と安全性についての情報が不十分で、どうもすっきりしないですね。

 

さて、今回はタイトルの通り、子宮内膜の日付診とERAについて書きます。どちらも、子宮内膜が受精卵を受け入れる準備状態(受容能)が整っているかどうかを検討する「手段」です。敢えて「検査」と書きませんが、それは検査といえるだけの確実性がないからです。ちなみに当院ではどちらも実施していません。

子宮内膜日付診とは、子宮内膜の状態が排卵日から何日目に相当するかを組織学的に評価したものです。70年ほど前にNoyes らは、排卵日から月経までの分泌期子宮内膜(腺及び間質)の変化を組織学的に1日刻みに記載しました。細部にわたり興味深いですが、現在では再現性が低いという理由で病理医の間ではあまり用いられず、初期、中期、後期分泌期の3段階評価くらいで良いと考えられています。私も以前はなかなか着床しない患者さんに行っていましたが、ホルモン補充周期における凍結融解胚移植で、子宮内膜の発育が「1日遅れている」、「2日遅れている」という報告に合わせて移植時期をずらしてもやはり着床せず、排卵周期に移植したらすんなりと着床したという経験以降やめました(以下も参照)。

 

ERA (endometrial receptivity analysis または array)とは、組織学的にではなく子宮内膜における約250個の遺伝子の発現を調べるものです。排卵日から数日後の着床時期の遺伝子発現パターンを調べて、それを着床しにくい女性と着床しやすい女性との間で比較することにより、子宮内膜の発育が何時間幅で遅れている、進んでいると評価するものです。上記の子宮内膜日付診と比較して、動的、機能的な評価法といわれていますが、ERAも確率的なものです。面白い論文があって(Fertililty and Sterility, 2021;115:1001-6) 、初回の凍結融解胚盤胞移植を受ける患者さんを2グループに分け、一方(81名、34.9歳)はERAを受けず固定されたプロトコール通りの日に移植し、他方(147名、36.9歳)はERAを受けて必要に応じて胚移植のタイミングをずらしました。ともにPGT-Aにより染色体が正常である胚盤胞を1個移植しました。出産率は55.6% と56.5% で差がなく、流産率も13.2% と15.2%と差がありませんでした。さらに興味深いのは、ERA を受けた患者さんの59.2% が「着床の最適な時期からずれている」と評価されたことです。

 

私は、内膜の発育のずれよりも、内膜の「質」が大切であると考えています。凍結胚移植のホルモン補充周期では、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの2種類しか補えず、それでは子宮内膜の状態が不十分な方達がいるのであろうと思います。その場合は、自然周期または排卵誘発によって卵胞を発育させ、排卵後に黄体を作ることで、卵胞ホルモンと黄体ホルモン2種類以外に黄体から多くの物質が産生されて、子宮内膜の質を向上し、移植の日をずらさなくても着床するのであろうと考えられます。

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