横浜HARTクリニック

〒221-0835 神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町3-32-13 第2安田ビル7階

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ご通院いただきありがとうございます

皆さん、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか?コロナウィルス感染およびそれによる肺炎が拡大して、世の中が落ち着かない状況ですが、当院にご通院いただいている方々には心からお礼申し上げます。スタッフ一同感染源にならないよう日々気をつけるのはもちろんですが、患者さんにも発熱等の症状があった場合には(コロナウィルスやインフルエンザと診断されていなくても)、2週間は通院をご遠慮いただくなどご協力いただいています。

 

原発事故による放射能漏れの際もそうでしたが、目に見えない脅威に対してはとても不安になります。さらに、国からの情報が小出しで断片的なため見通しが立たず、私たち一般市民は正直どうするのが一番よいのかわかりません。それぞれが生きていくために、それぞれの事情に応じて自分の判断で動くしかありませんが、結果は自己責任、運命ということでしょうか?

 

少子化が止まらず、年間出生数が86万人程度まで低下していますが、安心して子供を持ちたい、育てたいと思える社会からどんどん遠ざかっているのかもしれません。批判ばかりしていても始まりませんから、私にできることは何かと日々自問しています。不妊治療、生殖医療に関わる一医師の立場では大きな規模のことはできません。やはり、目の前の患者さん一人一人ときちんと関わって、不妊治療体験の辛さが少しでも軽くなるように努力を重ねたいと思います。治療を通して関わった様々なご夫婦と生まれた子供達が将来、日本が素晴らしい国になるように力を発揮してくれることを祈って。

 

2020年もよろしくお願いします

皆さん、こんにちは。よい年末年始をお過ごしになられましたか?どうぞ本年もよろしくお願いします。

 

さて、少子化は予測以上に進み、年間出生数が90万人を下回りました。子供を持たない、あるいは持つ子供の数が少ない夫婦が増えたということなのでしょう。本当は子供を授かりたいと思っているのに、妊娠、出産、子育てを取り巻く社会・経済事情がそうさせないのであれば、政策に関わる方々には今すぐ真剣に取り組んでいただきたい。切にお願いします。

 

私たち生殖医療従事者には社会・経済状況を変える力はありません。私たちにできることは、心から子供を欲しいと思いながら不妊で悩み苦しむご夫婦に、納得のいく治療(あるいは経験としての治療過程)を提供することです。正解はないことが多い不妊治療という道を、一緒に考えながら歩いてみましょう。時には休み、時には引き返してみることも必要です。最短、最速で結果を得るという考えは不妊治療にはそぐわないかもしれません。

 

毎年、元旦に診療理念を待合室に掲示しています。以前にもブログに載せたことがあり内容は変わっていませんが、久しぶりに再掲しておきます。

 

1.患者さんの気持ちに寄り添って診療を行います。

2.患者さんの話をよく聞きます。

3.それぞれの患者さんに最適な治療を提案します。

4.納得していただけるまで丁寧に説明します。

5.最高水準の医療を安全に提供できるよう、院内勉強会、研修、学会参加を通じて、知識の吸収と技術の向上に努めます。

6.定期的に接遇研修を行い、接遇マナーの改善、向上を目指します。

7.生殖医療を学ぶことにより、広い視野を持ち、社会に貢献できるスタッフの育成を目指します。

 

皆さんにとって、2020年が良い年でありますように。

 

 

 

 

2019年も残りわずかになりました

2019年も残りわずかになりましたが、皆さんいかがお過ごしですか?

 

今年通院していただいた方々には改めて厚くお礼申し上げます。新体制で臨んだ1年もあっという間に過ぎた感じです。初心に返って一つ一つの仕事の意味を考えながらより丁寧に行うことを心掛けました。今年はそれぞれのご夫婦に十分な時間がさけるよう治療周期数を調整して、約150周期の採卵(体外受精および顕微授精)と約140周期の凍結胚移植を実施しました。詳細は来年データが揃った時点でお示ししますが、今年1月から10月までの成績を、2017年、2018年のデータとともに下に示します。体外受精、顕微授精、凍結胚移植、いずれも2017年と同程度の結果です。

 

※画像をクリックすると拡大します

 

体外受精を専門としたクリニックですから体外受精の成績をお示ししますが、体外受精も不妊治療のひとつに過ぎません。培養業務も昔のような名人芸や特殊な能力を必要とすることもなくなりました。培養液は市販されているものを使用し、顕微授精に使う針も自作することはなく商品化されています。着床前診断、子宮内膜の着床能診断、細菌叢診断など種々の検査も、その有用性はこれから検証されていくでしょう(これら付随的検査を英語圏では add-on と呼んでいます)。スタッフブログで平良看護師長も書いているように、患者さんには過多な情報に振り回されることなく、必要なことは正しく考え悩んで、質の高いシンプルな治療を受けていただきたいと思います。

 

知識や技術に溺れることなく、様々な人生背景を持つ患者さんという生身の人間と、個性を持って一人の人間として生きていく受精卵を大切の思う心を持って診療を続けていきたいと思います。年間出生数が大きく減少している今、まずは子供を持ちたいと思えるような社会であって欲しい、不妊治療も人間性を忘れない治療であって欲しいと心から願います。

ホームページをリニューアルしました

皆さん、こんにちは。

この度、ホームページをリニューアルしました。当初の予定では開院月に合わせて7月末に完成の予定でしたが、私の怠慢により3ヵ月遅れての公開になりました。5年前、開院時に作成したものに比べると、ホームページのスタイルも大分変わったなあというのが実感です。自分の写真も5年分歳をとり、白髪も増えたのがよくわかります。以前に通院いただいた方々にも、今の私はこんな感じで働いています、と伝わって欲しいですね。

2つお話しさせてください。1つは、5年前はホームページをご覧になる方の6割がPC、4割がスマホ等でしたが、現在は9割の方がスマホ等で、1割がPCです。私はPCの方が慣れているせいもありますし、ホームページの作成もPC画面でしているので、スマホで当院のホームページを見ると少し違和感があります。PCもスマホも全く同じ内容ですが、スマホは縦に縦に情報が出てきてどこか落ち着かない感じです。PC画面は広さがあり、景色、情景として、情報以上に伝わるものがあるような気がします。お時間があれば、PCもぜひご覧ください。

2つ目はウェブ(インターネット)予約です。今回のホームページのリニューアルに合わせてウェブ予約の準備も進めたのですが、最終的には今のままの電話予約を継続することにしました。理由は、開院からの思いである、一人一人の患者さんときちんと向き合いたいと思う気持ちからです。限られた日々の診療時間の中で、私たちの時間を、皆さんに公平に最大限の満足をいただけるように割り振るためには、やはり電話で話す必要があります。生理開始とともにいただく電話がつながりにくいこともあると思いますが、実際にお話しをして、診療内容やご相談内容によってご来院の時間を決めることで、ご来院の際にはきっとご満足いただけると思います。

ホームページにとどまらず、私たちもまだまだ試行錯誤の日々です。お気づきのことがあれば、遠慮せずスタッフに直接お話しいただくか、待合室の洗面台横に設置してあるご意見箱に投函いただければ幸いです。

残暑お見舞い申し上げます

蒸し暑い日が続いていますが、いかがお過ごしですか?

ブログがしばらく空いてしまいました。理由は2つあって、一つは6月、7月は体外受精治療の方が多く診療が忙しかったため、もう一つはホームページのリニューアルを予定していてそれに合わせて書こうと思いながら、リニューアルが遅れているためです。5年前開業時に作った現在のホームページは折に触れて書き加えたり、修正したりしながら維持してきました。5年分の愛着もあるのですが、初めて見る方にとっては今風ではありませんよね。5年を目途にリニューアルする予定でしたので、できるだけ早く仕上げて公開したいと思います。

開業から5年が経ちました。ART(Assisted Reproductive Technology: 生殖補助医療、私は個人的には補助生殖技術と訳します)の分野でもいろいろな新しい機器や検査が導入されていますが、本当に出産率を向上させるのかはまだわかりません。私は以前から不妊治療はできるだけシンプルな方がいいと思っています。良い卵子と良い精子の出会いを助けること、それが全てです。良い卵子と良い精子の出会いは確率的なものです。卵子と精子に手を加えることはできませんし、加えるべきでもないと思います。卵子と精子の確率的な出会いによって生まれる多様性こそ、私たちヒトという種を維持し、意味のある社会生活を営んで行く上で最も大切なことだと思います。

そして、いつも書きますが、不妊治療のゴールは妊娠、出産ではなく、生まれてくる子供達が幸せな人生を送れることだと考えています。私個人の限られた人生において、そんなに多くの患者さんを診ることはできません。しかし、だからこそ一人一人の方と時間をかけて、不妊という状態を理解し、受け入れ、夫婦で克服していくお手伝いをしたいと思います。妊娠という結果だけではなく、その過程がご夫婦にとって、生まれてくる子供にとって最良のものとなるように。

平成最後の日に寄せて

皆さん、こんにちは。肌寒い日が多いですが、ゴールデンウィークをいかがお過ごしでしょうか?今年は暦の上では10連休、休日の方も仕事の方もそれぞれにお過ごしのことでしょうね。クリニックは例年通り、ほぼ隔日で体外受精の方の診療を行っています。

さて本日で平成が終わりますが、私個人としては特別な思いはなく、普段の一日と変わりません。確かに平成30年間を振り返れば、多くの出来事がありましたが、それは平成に限ったことではありません。自分も昭和より平成を長く生きてきましたが、それでも私という人間を形成したのはやはり昭和だと思います。

私にはこれまで繰り返し繰り返し読んできた本が3冊あります。「東京大空襲」(早乙女勝元、岩波新書)、「きけ わだつみのこえ」(日本戦没学生記念会編、岩波文庫)、「羊の歌、続羊の歌」(加藤周一、岩波新書)です。前2冊は中学生、3冊目は高校生の時に初めて読み、思春期の私に大きな影響を与え、それ以来折に触れて読み返してきました。「東京大空襲」は1945年3月10日の東京、本所・深川辺りの無差別空襲を、「きけ わだつみのこえ」はご存じだと思いますが、太平洋戦争期における戦没学徒兵の手記です。「羊の歌」は1919年生まれの加藤周一の自伝的随筆で、戦時中を生きた青年の冷静な視点がとても印象的です。加藤周一はもともとは内科医でしたが、医学の世界に収まらない社会全体への興味から作家へ転向しました。その文章は医者、科学者としての冷静で客観的な分析に基づいていて、私には読んでいてとても心地よいものです。

私はこれらの本から「個人と社会」、「個人と組織」、「個人と国家」について考えるようになり、いつの時代も一般市民には必ずしも真実は伝えられず、ニュース番組も新聞記事も一旦疑って自分で考え取捨選択する必要があると思うようになりました。その性質は医者になっても変わらず、さらに大学院での指導教官からも「まずは全てを疑う」ことを訓練されました。ですから、論文を読む時もそのまま鵜呑みにすることはなく、まずは批判的に読んでどこにも疑問点がなければ判定保留にします。あとは可能であれば自身の日々の診療においてその真偽を確かめるようにしています。

不妊治療の領域では、そもそも妊娠自体が確率的事象であるため、論文には不確定な要素が多いという制約が伴います。体外受精では、卵子、精子、受精卵を体外に出して培養、観察するため多くの研究論文が発表されますが、論文の結論について真偽の判定は容易ではありません。従って、時間の流れと共にその有効性が試され、妊娠率を上げるとして昔実施されていた付加的治療のほとんどは、その有効性が証明されず現在行われなくなっています。今新たに行われている付加的治療の多くもいずれ淘汰されて実施されなくなるでしょう。おそらく最終的に残るものは、実は体外受精が始まった頃から行われている基本的な事になるのでしょう。

これまでにも書いてきましたが、これからの時代が生まれてくる子供達にとって幸せなものであり、ご両親が安心して豊かな子育てができる世の中であって欲しいと心から願います。そのために、目の前の、そしてこれからの社会を見据えて、生殖医療従事者として、人として努力していきたいですね。

治療としての人工授精の位置づけ

皆さん、お元気ですか?

最近、初診でいらっしゃる方で、性交がうまく持てないからという理由の方が増えているように思います。お互い仕事が忙しくて時間が合わないとか、疲れていてそういう気になれないとか、性交に痛みを伴うので怖くてできない等、いろいろな背景がおありだと思います。そういう悩みでいらっしゃる方の多くは人工授精を希望して来院されますが、私はまずご夫婦で自己授精(シリンジ法とも言うようです)をトライしてみるようにお話ししています。

自己授精とは、男性がマスターベーションで精液を採取し、それをシリンジ(注射器の針を取った部分)に吸引して、女性の腟内へ注入する方法です。マスターベーションが出来ないと行えませんが、性交によって腟内に射精するのと同じ効果が期待できます。通院する負担もありませんから、時間と費用を節約することができますし、医療従事者、第三者が関わることなく、ご夫婦だけで実施できるところにも意味があると考えています。

そもそも、人工授精は不妊治療としての位置づけがあいまいで、妊娠率も高いものではありません。身体的、経済的負担が少ないので、タイミング性交を頑張ったあとのステップとして広く行われていますが、妊娠率は患者さんあたり10%程度です。この数字はうまく性交が持てないという理由の方々に限ってもあまり変わりません。このことは、人工授精の治療法としての限界を示すものです。人工授精では、採取した精液中の運動精子の10%程度しか回収できませんし、人工授精当日の精液所見に左右されますから、排卵時期の少し前から自己授精を何回か繰り返すほうがより効果があるかもしれません。

もちろん、タイミング性交を十分に頑張ったというご夫婦が人工授精をトライしてみるのはいいと思います。妊娠率が10%程度とはいえ、より負担が少ない治療で妊娠できればそれに越したことはありません。人工授精で妊娠する方の多くは4回目までに妊娠していますから、年齢的に余裕のある方は4回までを目途にトライしてはどうでしょうか。

もし人工授精で妊娠に至らなくても、あまり落ち込まないでください。卵管因子や卵巣因子など、人工授精では解決できない原因が隠れてることも多いですから、結果が出なければ次のステップを考えましょう。体外受精での患者さんあたりの妊娠率は40歳未満であれば60-80%になりますから安心してください。

2019年もよろしくお願いします

皆さん、こんにちは。寒く乾燥した日が続いていますが、いかがお過ごしですか?

皆さんがそれぞれの思いで新しい年をお迎えになったことと思います。2019年もどうぞよろしくお願いします。

今年の7月に、横浜HARTクリニックは開院から5年を迎えます。1年目、3年目、5年目が節目と思いながら日々診療をしてきました。5年目は数ある不妊治療施設の中で横浜HARTクリニックらしさが出てくればいいと思っていましたので、その目標には近づいていると思います。また、ホームページのリニューアルや、リース機器の見直しなどハード面での目標も一つ一つ達成していきたいと思っています。

近年不妊治療がメディアに取り上げられることも多くなりました。様々な雑誌や書籍も出版され、インターネット上にはいろいろな意見が溢れています。それらの中には矛盾するものもあり、丁寧に読む人ほど混乱し不安になるのではないでしょうか?

私は不妊治療は本来シンプルなものであると思っています。通常、夫婦が1-2年の間、排卵日を意識することなく週に2-3回の性行為を続けていると、80%くらいが妊娠に至ると言われています(しかし、この割合は女性の年齢が30代半ばくらいまでで、30代後半以降ではもっと低いと考えた方がいいでしょう)。従って、20%、5組の夫婦に1組の割合で不妊治療施設を訪れることになります。

外来の検査で原因がはっきりすると思っている方が多いですが、外来の検査で調べられるものは限られていて、原因を特定できる夫婦は10-20%程度です。本当に知りたい卵子や精子の質、卵管の機能(詰まっていないかだけではなく卵子をピックアップできるか)、着床能力などを外来検査で調べることはできません。従って、「もうこれ以上性行為を続けていても妊娠するとは思えない」と感じたら、検査結果によらず治療を進めることになります。その治療法として何が良いかは、それぞれの方で異なりますが、通常は3-4回人工授精を行った後に体外受精へ進むことになります。

体外受精も現在ではかなり一般的な治療となり、丁寧に患者さんを見ていけば安全で有効な治療法です。そして、上述したように本来「シンプル」なものです。卵子を採取して体外に取り出し、精子と一晩一緒にすることで受精をさせ、できた受精卵を子宮に移植します。良い受精卵が複数あれば将来の移植のために凍結保存することも可能です。卵子と精子が物理的に出会えないことだけが不妊の原因であれば、大半の夫婦が1回の採卵で妊娠に至りますが、いい卵子といい精子がなければ、どんなにベストを尽くしても体外受精はうまくいきません。そして役割の上からも数の上からも、特にいい卵子が得られるかどうかにかかっています。

では「いい卵子」はどのようにしたら得られるのでしょうか?この質問はほぼ毎日患者さんから受けますが、一番知りたいことですよね。残念ながら、エビデンスのある解決法はなく、単純に確率によるところが大きいです。タイミング性交でも1年間は頑張るように言われるのは、いい卵子が育つ生理周期は頻度の高い方でも3周期に1回、低ければそれこそ10周期、1年に1回とも考えられるからです。

もちろん刺激周期では、刺激法を変えたり、使用する注射薬剤を変えたりしますが、主に副作用を軽減したり採卵できる卵子数を増やしたりすることが目的で、卵子の質を大きく変えるものではありません。医師から何か新しいことを提案されたり、あるいは自ら試してみたいと思うことがあって、それを行った治療周期に良い卵子が得られて妊娠したという方も多いでしょうが、本当にそのことが効を奏したのか、たまたまその周期にいい卵子が得られたのか、因果関係を証明することは簡単ではありません。私は、どちらかと言うと経験上、単純によい周期にめぐり会っていい卵子が得られた可能性が高いと考えていますが、結果が良ければ因果関係を証明することにもあまり意味はありません。いずれにしても、その生理周期に採卵をしたことが、その方の運命なんだなあ、とその度に思います。

いい卵子がいつ得られるのかはっきりとした答えのない中治療を続けていくことは大変なことだと思います。しかし、自然妊娠ということ自体が持つ不確定な要素を理解して、不妊治療がその上に立つものであると認識していただければ、いい意味である程度淡々と治療と向き合うことが出来るかもしれません。

2018年もありがとうございました

皆さん、こんにちは。かなり寒くなってきましたね。

2018年もあと2日となりました。今年も多くの方々に横浜HARTクリニックにご通院いただき、ありがとうございました。心より感謝申し上げます。

今年は一時期体外受精治療をお待ちいただくなど皆さんにご迷惑をおかけしましたが、現在は通常通り治療を行っていますのでご安心ください。

私も久しぶりに体外受精の培養業務に関わり、卵子、精子、受精卵を自分の目で確認する機会を得ました。体外受精と出会って25年になりますが、何度見ても受精卵の持つ驚くべき生命力に感動させられます。何十年も卵巣の中で眠っていた卵子が、精子と出会って受精することでスイッチが入り発生を始める。分割を繰り返しわずか数日のうちに細胞数が200近くにもなり着床に備える。そのプログラムがどこに書かれていて、どのように実行されるのか、神秘ですね。私は昔、そのような力を卵子の遺伝子発現から解き明かそうと研究していましたが、結局いくつかの遺伝子を見つけただけで、研究すればするほど全体を解き明かすことなど到底無理だろうと思えてきて、また臨床に専念することにしました。

何十年も眠っていられた卵子も受精して一旦スイッチが入った後は、発生がうまくいかないと死んでしまいます。生か死か、発生とは種の保存をかけた大きな賭けなのです。生きようとする受精卵を見ていると、目の前の受精卵に手を加えて遺伝子を編集したり、特定の遺伝子や染色体を持つ受精卵を選別したりすることは、神をも恐れぬ行為なのかもしれません。受精卵が本来持つ力を信じて、その力を発揮させて、それを受け入れていく社会が必要なのではないでしょうか?

生まれてくる子供たちにとって、世の中が少しでも住みやすく充実したものであってほしいと願わずにはいられません。2019年が、皆さんにとってより良い年になりますように。

よいお年をお迎え下さい。

着床前診断(PGT-A)について

皆さん、こんにちは。変わりありませんか?2018年も残り2週間、平成最後の年末になりましたね。

さて、先日(12月16日)日本産科婦人科学会倫理委員会主催の公開シンポジウム、「着床前診断―PGT-A 特別臨床研究の概要と今後の展望―」に参加しました。何年か前にも同じテーマのシンポジウムに参加しましたが、今回は日本国内で実施された80組程度の夫婦の着床前診断の結果についての報告であり、新聞記事をご覧になった方も多いのではないかと思います。

私は今から25年前、1993年にアメリカで受精卵の性別を調べる研究をしていました(2015年9月18日のブログ参照)が、その後着床前診断は技術的な発展を遂げ、近年は遺伝子疾患だけではなく、46本全ての染色体の構造異常や本数の異常をも調べられるようになりました。

今回のシンポジウムで特に議論されたのは、着床前診断の中でも染色体の本数の異常を調べるもの、preimplantation genetic test for aneuploidy (PGT-A) です。妊娠初期の流産の原因で最も多いものは胎児の染色体異常であり、今回の臨床研究は体外受精による着床不全や初期流産を繰り返す習慣性流産の患者さんにPGT-A を行い、正常胚を選択して移植することで妊娠、出産率が向上するかを調べたものです。これまでのデータ解析では改善傾向が認められるとのことでした。

ヒトは合計46本の染色体(1番から22番までの22対の常染色体44本と、XX または XY の性染色体2本)を持っています。対になっているのは、父親(精子)と母親(卵子)から同じ番号の染色体を1本ずつ受け継ぐからです。同じ番号の染色体が正常の2本ではなく、3本ある場合をトリソミー、1本しかない場合をモノソミ―といい、「いずれの場合も」妊娠初期に流産します。したがって、PGT-A によって各染色体の本数を調べ、正常な受精卵のみを移植することで移植あたりの出産率は向上するはずです。

ここで倫理的な問題が出てくるのですが、以下に説明します。

3行上に「いずれの場合も」と書きましたが、正確ではありません。正確には、「13番、18番、21番のトリソミーの一部を除くいずれの場合も」になります。13番、18番、21番トリソミーも多くは初期流産に終わりますが、一部の受精卵は妊娠初期を乗り越えて出産まで進みます。

PGT-A によって正常な受精卵があった場合には、その正常な受精卵をを移植します。従ってもし、13番、18番、21番トリソミーを持つ受精卵があったとしても、その他の異常受精卵と同様に流産する受精卵として廃棄され、あまり意識されないと思います。

しかし、正常な受精卵がなく、21番トリソミー(ダウン症)を持つ受精卵があった場合に、流産する可能性が高いが、うまくいけば赤ちゃんを出産できる。移植するか、廃棄するか。まさに命の選択を問われることになります。

不妊治療には正解はありません。それぞれの夫婦が置かれた状況によって、自ら考えて決定し行動するしかありません。一所懸命考えて悩んで出した結論なら、それが正解です。PGT-A も国内で実施が認められれば、受けるか受けないかは、各夫婦が十分な説明を受けた上で決めて欲しいと思います。

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