皆さん、新年明けましておめでとうございます。国内、国外いろいろな世情を考えると、新しい年を迎えられるだけでも幸せなことですね。
本日からクリニックに出勤していますが、少し時間があったので、看護師長の平良さんと昔話をしました。開業から8年半、ずっと支え続けてくれるスタッフは平良さんだけです。開業したばかりの頃、一日の終わりにビルの地下へ一緒に段ボールを片づけに行っていましたが、その際平良さんからよく「先生は、どんなクリニックにしたいのですか」と聞かれました。私は「患者さんに寄り添えるクリニック、もし妊娠できなかったとしても患者さんが通って良かったと思えるクリニックにしたい」と答えていました。また「平良さんには、患者さんを縦に診て欲しい。そして、自身の身体や治療について一番良く知っている患者さんから教わってください」と話しました。「縦に診る」というのは、患者さんの来院日だけの対応ではなく、治療周期を通じて思いを馳せて接するということです。そのためには、看護師としての力量に加えて、正しい医学的知識、そして人として関わる力が必要です。平良さんにはもともと人として関わる力がありますし、医学的知識は日々コツコツと実直に仕事を積み上げることで身につけ、本当に全ての患者さんを縦に診てくれています。患者さんの中には、平良さんがいるから横浜HARTに通院してくださる方もいます。診察室で私と話をした後に、私がうまく伝えられなかったり不十分だったりしたことを、平良さんがよりわかりやすく、それぞれの患者さんに寄り添って説明してくれます。患者さんにとってはとても安心できることでしょう。素晴らしいことです。
この診療スタイルこそが横浜HARTクリニックの存在価値だと思っています。誠実に「患者さんに寄り添うこと」が私達が実践してきたことです。そうすることで、治療周期、一周期一周期を大切にした、保険に縛られない治療が可能となり、高い妊娠率に結び付くのです。それぞれの方を縦に診ていますから、診療内容によって予約枠も調整でき、長くお待たせすることもありません。不必要なストレスを軽減して、最短の通院で結果に到達できるよう、一緒に頑張ってみませんか?
皆さん、こんにちは。いかがお過ごしですか?
2022年もあと一週間になりました。どんな一年をお過ごしになられたのでしょうか?
私は今年一年の診療を振り返って、2つ書いておきたいことがあります。
一つ目は、今年4月以降も自費診療のまま通院していただいている方々への感謝です。自費診療を続けることで、実際、患者さんの数は減りました。それでも、これまで続けてきた「患者さんを人として診る不妊治療」を行うには、保険診療では難しいと判断して考えた結果、今日まで自費診療を継続しています。3割負担とはいっても体外受精は決して安い金額ではありませんし、安いからと回数を重ねるにはストレスが大きい治療です。患者さんを人としてサポートしながら、一周期一周期がベストになるよう、薬剤や診察回数の制約なく治療を行うことが、妊娠への近道だと考えています。
臨床成績についてはホームページ「当院の実績」を、また現在実施している定額費用については「費用について」をぜひご覧ください。
二つ目は、卵子提供についてです。今年9月のブログに書いた通り、実際に治療に進む方は少数ですが、問い合わせは多くいただきます。もちろん、当院の本来の治療はご夫婦間であり、卵子提供は一部の方のみを対象にしています。ホームページに卵子提供治療や、ドナーやレシピエントの募集を掲げているのは、日本国内で、覚悟を決めて卵子提供による不妊治療を受けよう、卵子を提供しようという方がいるのかを知りたいからです。法的には禁止も是認もされていませんから、当事者、医療従事者、関係者がそれぞれに責任を持って向き合うことが大切です。隠れてこそこそするから、卵子提供が悪いことのように思われ、生まれてくる子供に告知しにくい状況が生まれるのです。体外受精が保険適応になったことで「不妊治療が疾患として認められたようで、職場で通院のことが話しやすくなった」という意見があるそうですが、それと同じことだと思います。
横浜HARTクリニックは少人数で運営していますが、それは患者さん一人一人の顔が見える関係を生み、その方に合った治療をきちんと納得していただいた上で提供できることにつながります。技術はもちろんですが、保険点数にない、「人」「心」の部分を大切にしています。治療に疲れた、話を聞いてほしいなあ、という方はぜひ一度ご相談ください。
少し早いですが、皆さん、良いお年をお迎えください。
2023年が皆さんにとって、より良い年でありますように。
Wishing you a Merry Christmas and a Happy New Year!
皆さん、こんにちは。いかがお過ごしですか。
今年4月から体外受精の保険適応が開始して、半年が過ぎました。皆さんそれぞれの思いで頑張っていらっしゃることと思います。横浜HARTクリニックでは、自費診療を続けていて、その理由はこれまでにも何度か書いてきました。一番の思いは、一回一回の治療周期を大切に、最大限の効果を生み出すために最良の選択をし、精神的なケアも含めた全人的な治療をしたいということです。
保険診療になって3割負担とはいっても決して安い治療ではありません。また、どの生理周期にも同じように良い卵子が育つわけではありません。治療に選んだ周期が良い(妊娠に至る卵子が含まれている)のであれば、使用する薬剤や超音波診察回数の制限を気にすることなく、ベストを尽くしたい。場合によっては、輸入製剤を使用することもあります。
このような思いは変わりませんが、4月から導入された保険診療に伴う保険点数を考えると、当院が4月以前から決めている自費の費用が、かなり割高に感じられることは否めません。私たちも医療従事者として、皆さんのお役に立ちたいですし、心の通った、本物の不妊治療を提供したいという強い思いがあります。
そこで、いろいろ思い悩みながら、自費ではありますが、保険診療による費用も参考にして、定額費用による治療を検討しています。採卵周期が始まったら、胚培養(胚凍結)が終了するまでを定額費用に決めるというものです。来院の度にいくらかかるかと心配いただかなくてよくなりますし、実際都度会計でのお支払いの手間がありません。質を落とすことなく、これまで通りの治療を一人でも多くの方に受けていただきたく準備中です。近々、ホームページ上に出しますので、ぜひご一考ください。
こんにちは。昨日のブログの続きです。
横浜HARTクリニックでは、凍結胚盤胞の2個に1個が着床するとお話ししました。
患者さんに「胚盤胞が凍結できましたよ」とお伝えすると、「私が妊娠する確率はどのくらいですか」と聞かれます。
凍結胚盤胞が3個あるとしましょう。1回の採卵周期で3個できる方もいれば、1回の採卵で1個ずつ、3回の採卵周期で3個できる方もいます。いずれにしても、3個の胚盤胞を1個ずつ移植する場合を考えてみましょう。1個ずつの着床確率が 1/2 ですから、「3個とも着床しない」確率は、
(1/2) x (1/2) x (1/2) = 1/8 = 0.125
になります。すなわち、胚盤胞が3個あっても、12.5% の方が妊娠に至らない計算になります。言いかえると、100 – 12.5 = 87.5% の方は少なくとも1回(1回、2回、または3回)妊娠するということです。
これは、純粋な算数計算ですが、実際当院では80%以上の方は妊娠に至っていますから、計算値と臨床妊娠率はほぼ合致しています。このことから、二つのことがわかります。
まず、計算値とは受精卵以外の条件を一切考慮しない理想値ですから、計算値と臨床妊娠率が合致するということは、子宮の原因によって妊娠しない方は非常に少ないということです。つまり、子宮因子、例えば NK 細胞、Th1/Th2 等の免疫的な原因や、着床の窓といった移植の時期のずれによる着床不全はあまり気にしなくてもいいということです。
もう一点は、計算値通りの妊娠率が得られているということは、胚盤胞の凍結、移植周期の子宮内膜の準備、胚融解、胚移植手技の一つ一つが確実に行われているということです。クリニック各部署の仕事だけではなく、患者さんも説明された通りにきちんと薬を使っていただいている証です。
患者さんを「人として診る」ことで、より深い不妊治療を行うことができます。できるだけ多くの情報を得て、その方にあった適切な治療計画を立て、治療のステップ一つ一つを丁寧に進めることによって、シンプルながらも最大限の効果を得ることができます。そのスタートは「よい卵子を得ること」です。検査に時間と費用をかけるよりは、新たな採卵を1回行うことで良い卵子を得る確率を高めることを私は選択します。
皆さん、こんにちは。肌寒くなってきましたが、秋晴れの空がさわやかですね。
不妊治療がうまくいくかどうかは、良い卵子と精子が得られるかどうかにかかっています。
精子は一回の射精でたくさん得られますから、主に卵子の質によって決まります。
卵子の質を高めようと、DHEAや成長ホルモン(GH)など、過去に様々なもの(こと)がトライされました。私も一通りのことは試してみましたが、残念ながらはっきりとした効果の認められるもの(こと)はありませんでした。結局何かの効果というよりは、もう一周期採卵をしたことで、よい卵子に出会えたと考える方が現実的です。
横浜HARTクリニックには、体外受精をしてもなかなか妊娠に至らない方が来られます。そういう方々が妊娠されたことを振り返ってみて、いつも不思議に思うのです。すでにタイムラプスによる胚観察やPGT-Aなど、いろいろな検査をしてこられる方が多いのですが、逆に当院では、そういう「付加的検査(add-on)」を一切することなく、基本に忠実なシンプルな治療をしています。その結果、採卵の時点で質の高い(妊娠できる)卵子が得られているということです。
当院の最大の特徴は、(1)スタッフ全員で一人ひとりの患者さんを「人として診る」こと、(2)卵子、精子、受精卵の「生きる可能性」を信じることです。
(1)については、技術を提供するだけでなく、患者さんを全人的に診て、治療について正しく理解していただく。クリニックに安心感を持ち、スタッフを信頼して通院していただくことです。科学的に証明はできませんが、その安心感、信頼感が、卵巣の中の卵子が持つ、本来の力を引き出すことが出来るのかもしれないと思っています。エピジェネティックスというのでしょうか。30年近く患者さんを診てきてそう思います。
外来では看護師長平良さんの力も大きいです。医師には遠慮してしまうけれど、平良さんには話せる、ぜひ話したい、聞いてほしいということも多いと思います。注射の仕方や日々の過ごし方でもいいし、夫婦や職場のこと、直接治療と関係なさそうに思えることでもいいのです。ちょっとした情報を治療に活かすことでよりリラックスしてご通院いただけます。
(2)については、受精卵を患者さんの不妊原因と照らし合わせて総合的に判断するということです。私(後藤)は全ての患者さんの受精、培養、凍結、融解の培養業務に直接関わっています。受精方法を決めたり、どの胚を凍結するかを決めたり、場合によっては実際に媒精したり凍結したりしています。BC胚盤胞でも、その治療周期のベスト胚であれば凍結することはありますし、流産経験のある方では、正常な受精(2PN)が確認できなければ、AAでも凍結しないことがあります。それぞれの方の臨床背景を考えて最良の結果が得られ、かつ経済的、身体的、心理的負担が少なくなるように決めています。
当院の刺激周期採卵では、70-80%の治療周期で胚盤胞が得られます。そして、凍結融解胚盤胞移植の妊娠率は50%、つまり胚盤胞2個に1個は着床します。流産率は15%程度です。この着床率、流産率はPGT-Aをした場合の多くの報告と変わりません。PGT-Aをする場合には、異常胚として廃棄される胚盤胞が多くありますから、当院の成績は、より少ない数の胚盤胞で妊娠に至ることを示しています。
シンプルな治療方針ですが、(1)、(2)のように、一つ一つのステップを丁寧に行うことで、体外受精で妊娠される方の90%の方が3回までの採卵で力のある卵子に出会うことができ妊娠に至っています。
皆さん、こんにちは。日中はまだ暑いですが、朝晩は大分過ごしやすくなりましたね。
今回は、横浜HARTクリニックにおける、卵子提供プログラムの現況をお話しします。当院で卵子提供による治療を始めて約2年になり、卵子をもらいたいという方(レシピエント希望の方)から多くのお問い合わせをいただいています。しかし、まだこれまでに卵子ドナーとマッチングして、実際に体外受精治療に進んだ方は一組だけです(ちなみに無事に出産に至っています)。
当院のホームページに書いてある通り、横浜HARTクリニックでは非匿名の卵子ドナーを募集していますが、残念ながら今のところ応募がありません。従って、OD-NETを通じてマッチングされた匿名卵子ドナーからの卵子提供のみ実施しています。これまでに、レシピエント希望のご夫婦、ドナー希望の女性、それぞれ10組(人)以上の方々にご来院いただきました。電話でのお問い合わせのみの方を含めればもっと多くなります。
では、なぜ多くの方が治療に進まなかった(進めなかった)のでしょうか?
理由は以下の通りです。
提供卵子による体外受精治療では、レシピエント女性が無病であったとしても、夫婦間の治療と比べて、妊娠高血圧症や異常出血などのリスクが数倍高くなります。さらに高齢(当院では年齢制限を設けています)であったり持病があったりすれば、産科的なリスクは一層高まります。これまでのレシピエント希望の方々は、そういった産科的リスクが高くなるような方が多く、時間をかけて話し合った結果、大半の方が当院での治療を辞退されました。
また、ドナー希望の方については、若くても卵巣機能が良くないと思われる方、つまり卵子を提供していただいても治療がうまくいかないと思われる方や、卵子の提供を骨髄の提供と同じ程度に考えていて、生まれてくる子供との将来の関係にまで思いが及んでいない方など、私達が責任を持ってドナーとして推薦しにくい方々が多かったからです。卵子提供が「匿名」である場合の難しさです。
ご夫婦間の治療で私達が一番に願う「生まれてくる子供の幸せ」を、卵子提供による治療ではより一層強く意識します。ですから、私達は出産、子育てを見据えて、レシピエント女性の身心の健康状態をしっかりと見定めます。また、レシピエントご夫婦に代わって、ドナー希望の方の身心の状態を厳しく見ています。卵子提供による治療は、技術があるから使うのではなく、将来の子供たちのために、可能な技術を誠実に謙虚に使ってはじめて価値が生じます。レシピエントご夫婦、ドナー女性、そして誰よりも生まれてくる子供が幸せで、後悔することのないように治療していただきたいと思います。
当院のレシピエント、ドナー基準を満たす方で、切に卵子提供による治療をご希望の方は、ぜひご相談ください。治療に進んでも進まなくても、話して良かったと思っていただけるよう対応いたします。
皆さん、こんにちは。
今年の夏もまた、各地で水の被害が出ています。被災地の方々には、心よりお見舞い申し上げます。温暖化対策についてもっと危機感を持って臨まないと、日本という国が沈んでしまうのではないかと心配です。
この何年か、着床前診断について何かと話題にのぼっていますから、PGTという英語の略語も多くの方がご存知でしょう。現時点では、PGTは、PGT-A、PGT-M、PGT-SRの3つに分類されています。「A」は aneuploidy、皆さんが一番よく知っている、染色体の数の異常を調べるものです。「M」は monogenic disease、単一の遺伝子が原因で起こる遺伝病の診断をいい、「SR」はstructural rearrangement、転座など染色体の構造異常を扱うものです。
30年近く前、私が受精卵の性別を調べていた頃(Y染色体があるかどうか)は、ヒトのゲノムや遺伝子についてはまだ断片的にしかわかっていませんでした。しかし、当時新たにPCR(今は新型コロナウィルスの検査でよく耳にしますね)という方法が開発されたことで、遺伝子(DNA配列)の異常部分さえわかれば、受精卵から得られる細胞1個からでも、遺伝病を診断することが可能になりました。当時これを、preimplantation genetic diagnosis (PGD) と呼んでいました。今でいうPGT-M ですね。PGT-M では原則、一つの遺伝病に対して、原因となる遺伝子が一つ対応します(単一遺伝子疾患、monogenic の頭文字 M です)。
それに対して、21世紀に入ってゲノム解析技術が飛躍的に進んだことで、糖尿病や心臓病、癌などには、一つの遺伝子ではなく複数の遺伝子がかかわっていることがわかってきました。その複数の遺伝子の多様性パターンを調べることを、複数遺伝子、polygenic の頭文字をとってPGT-P と呼ぶことが提唱されています。
これが良いことなのかどうか。糖尿病や心臓病、癌にかかりやすいとは言っても必ずしもかかるわけではなく、生活習慣を変えることで予防できるかもしれません。しかし、知ってしまった以上は、かかりやすい遺伝子パターンを持つ受精卵よりは、かかりにくい遺伝子パターンを持つ受精卵を選ぶでしょう。「個性」も同じです。背が低いよりは高いほうがいいとか、見た目のいいほうがいいとか、運動神経がいいほうがいいとか、歌がうまいほうがいいとか、視力がいいほうがいいとか。子供を授かりたいとシンプルに願うはずの不妊治療が、受精卵(子供)を選ぶことになってしまう懸念があります。昔から、いつか「デザイナーベイビー」の時代が来るだろうと言われていましたが、いよいよな感じがします。
私自身、家系的に血糖値が高く、この数年低糖質ダイエットをしています。今の時代に受精卵であったら、選ばれず、この世に生まれることがなかったタイプかもしれません。そういう意味では両親に感謝です。
皆さん、こんにちは。蒸し暑い日が続いていますが、変わりありませんか?
横浜HARTクリニックは、おかげさまで7月7日に開業9年目を迎えました。現在ご通院中の方々、および以前にご通院いただいた方々に心からお礼申し上げます。
変化する時代のニーズに応えながら、「横浜HARTクリニックらしさ」「横浜HARTクリニックにしかできないこと」を守りたいと思って診療をしてきました。開業からの8年の間には、さまざまな”add on”(エビデンスの少ない付加的治療、検査)が登場しましたが、結局どれにも手を出さずに今日まできました。その一番の理由は今述べたとおり、それらの付加的治療、検査によって妊娠、出産率が高くなるという証拠がないからです。それよりも、患者さんの話に耳を傾け、医学的に正しいことを丁寧に説明して、お互いの信頼関係(ラポール)を築き、その上で確かな医療技術を提供することが妊娠への近道であり、患者さんご夫婦と生まれてくる子供達が幸せになれると信じるからです。PGT や ERA/EMMA/ALICE などの検査もせず、時代のニーズ、流行りに応えていないように見えますが、皆さんの本当のニーズが「子供が欲しい」ではなく、「子供を授かって幸せになりたい」というのであれば、応えているのではないでしょうか。
何年経っても、子供に胸を張って、「横浜HARTクリニックで授かったんだよ」、「お父さん、お母さんと一緒に頑張ってくれた人たちがいたんだよ」と言っていただけるクリニックであり続けたいと思います。
保険診療が始まった今も自費診療による体外受精を続けていて、何となくニッチなクリニックに思われているかもしれません。しかし、ただ周りが変わっただけで、私達は開業からずっと変わらない診療理念を守っているだけです。
皆さん、こんにちは。いかがお過ごしですか。
今年4月から体外受精が保険診療になり、皆さんそれぞれに頑張っていらっしゃることでしょうね。
当院では今年1月にHPのお知らせ欄で、4月以降も自費診療を継続することをお伝えしました。それにより、保険診療ができる施設へ転院された方もいらっしゃれば、自費診療であることをご理解いただいたうえで通院していただいている方もいらっしゃいます。前者の方々には、ご迷惑をおかけしたことについて心からお詫び申し上げます。後者の方々には、改めてお礼申し上げます。
さて、今回は私がどうしても自費診療を継続したい理由をお話しします。他施設でも、自費診療を行っているとは思いますが、おそらく保険診療と自費診療を選べるようになっているのでしょう。そして、保険か自費かを選択する場合、「保険診療であればここまでです」、「検査A、処置Bを加えるなら自費診療になります」というように、目に見える形での付加的な違いがあるので、その差がわかりやすいのだろうと思います。一方当院では、もともとシンプルな治療をしており(これは30年以上の臨床経験から、付加的な検査・処置をしても出産率は変わらないということに基づいています)、PGTもERAもEMMAもALICEもタイムラプス観察も行っていませんので、目に見える形で何かが違うというわけではありません。
では何が違うのかというと、これまでブログ等でも説明してきましたが、「患者さんの話をきちんと聞いて、医学的に正しいことを説明して、安心して治療を受けていただく」ことです。「話をしたって妊娠するわけではないでしょ」と思う方もいらっしゃることでしょう。確かにその通りです。しかし、「当院の実績」にも示している、妊娠に至るまでに必要な刺激周期による3回の採卵をやりきることは、身体的にも精神的にも大変で、治療開始前に丁寧に説明をしないとフェードアウトしてしまう方も少なくありません。従って、体外受精の効果と限界をきちんと理解していただいてから治療をスタートし、中期、長期目標を定めて、目の前の結果に一喜一憂し過ぎずに治療を進めていただくことが大切なのです。
クリニックの設備は粗末でも豪華でもなく、「待合室」ではその時の心の状態に従ってくつろげるように、「診察室」ではゆっくりと落ち着いて話せるように、「内診室」ではリラックスして診察を受けていただけるように、「処置室」では医師と話せなかった(話しにくかった)ことをナースと話せるように、「場」「空間」を意識した作りになっています。保険診療の点数には表れない、医療従事者と患者さんが、「人と人として」悩み、苦しみを共有できることにこだわっています。
私達が大切にしたいのは、不妊で悩むことになった患者さんご夫婦の人生に寄り添うこと、一歩進んではまた困難にぶつかり、「私はなんでこんなにつらい思いをしているのだろう」、「夫(妻)はどう考えているんだろう」「流産しないかと毎日毎日心配でつらい」「子供が生まれたら大丈夫かな」といったたくさんの不安や悩みを抱えながら治療に向き合う方々を心から応援したいと思っています。ですが、多くの患者さんを診察することはできません。一日に診察できる人数には限りがあります。妊娠、出産がゴールではありません。生まれてから、何十年にわたる子育てに覚悟を持って臨めるように、悔いのない不妊治療をサポートします。
言葉は悪いですが「手っ取り早く妊娠したい」という方には横浜HARTは認めていただけないと思います。何がどうつらいのかもわからないということでもいいのです。私も看護師長の平良さんも、そんな悩み全てを受け入れる準備ができています。安心して3回の採卵を目標に頑張っていただくこと、シンプルに頑張ること、それが妊娠への近道です。転院をお考えの方、治療の終結をお考えの方、最後の砦としてぜひ当院にご相談ください。
こんにちは。いかがお過ごしですか?
明日3月21日をもって「まん延防止等重点措置」が終了することに伴い、3月22日より通常の診療時間に復帰します。長い間、診療時間の変更にご協力いただき、ありがとうございました。
最初の「緊急事態宣言」が出されてから約2年になります。今日までいくつかの新型コロナウィルス感染の波がありましたが、院内消毒を徹底し、患者さん同志の密を避け、スタッフも人の集まるところを避けるなどして、院内感染を起こしたり濃厚接触者を出したりすることなく診療を継続することができました。今後もまた感染の波がくると思われますが、各人がこの2年間に学んだ身の処し方で乗り越えていくことができることでしょう。
コロナ禍での恩恵も二つありました。一つは学会がWeb開催になったこと。開業するとなかなか学会に参加できなくなります。Web開催になることで、国内外の学会を期間中24時間いつでも視聴できます。さらに学会場であれば並行しているために聴講できない講演もWebであれば全て聴くことができます。最近は新型コロナウィルス感染が落ち着いてきたことで、学会場での現地開催とWeb開催のハイブリッドが増えてきましたが、今後もWeb開催はぜひ続けて欲しいものです。
もう一つは、教科書を読み直す時間ができたこと。遺伝学で学位を取得していますが、随分昔のことなるので、いつか最近の教科書を通読したいと思っていました。実際、非侵襲的出生前検査(non-invasive prenatal testing; NIPT)、着床前遺伝学的検査(preimplantation genetic testing; PGT)、遺伝カウンセリングの教科書を読むことができました。2003年にヒトのDNA配列が解読されてからの遺伝学的検査技術の進歩を改めて感じると共に、その技術そのものの限界について再確認し、それら検査結果を生殖医療、さらには社会の中でどう活用していくかという倫理的な問題について考えることができました。子供を産み育てるということが、愛情にあふれたごく自然な営みから、「選択」「排除」というデジタル的な行為にならないよう、常に意識していたいと思います。