皆さん、こんにちは。いかがお過ごしですか?
新型コロナウィルス感染者数が大きく減少し、一旦落ち着いたように見えますが、患者さんの中には、ワクチンを打たない/打てない方々もいらっしゃいますので、当院では院内感染予防対策を継続実施します。つきましては、皆さんの院内滞在時間が最短で済むよう、調整しますので、予約日時について引き続きご協力いただきますようお願い申しあげます。
話は変わりますが、私は開業時から横浜HARTクリニックは(レーシングカーの)F1チームでありたいと話しています。ご存じのようにF1では、時速300 kmを超えるスピードで走ります。チームの一人一人が日々鍛錬、訓練して、レースでは緊張の中チームワークを発揮し、その全てを信頼するドライバーがためらうことなくコーナーに突入します。レース途中のタイヤ交換では0.1秒を争い、ねじ1本少しでも緩んでいたらドライバーは命を落としてしまいます。勝負に勝つか負けるかには当然運もありますが、チームの全員がそれぞれにベストを尽くすことができ、チームとして安全に100%の仕事ができたのであれば、今回勝負に負けたとしても次のチャンスがあるはずです。
横浜HARTクリニックにあてはめれば、医者はチームオーナー、看護師は現場を仕切るチーム監督、培養士はメカニックでしょうか。そしてドライバーはもちろん患者さんです。
医者はチームオーナーとして、チームのメンバーが迷うことなく最高のパフォーマンスができるように、「場、空間」を調える役割です(力不足のことも多いですが)。
看護師はチーム監督として、各部署の仕事を把握してチームを統括し、ドライバーの身心の状況に合わせてレース運びを組み立てます。
培養士は、常に平常心で仕事に臨み、ドライバーに見えない車体の部品1個1個に細心の注意を払って、ドライバーがリタイアせずにフィニッシュできるように作業をします。
そして最後に、ドライバーとしての患者さん。数あるチームの中で、横浜HARTクリニックを選んでいただいた理由は何でしょうか?このチームとなら、このチームの車なら、安心してゴールまで走れそうだからと思っていただいたからであれば、私たちはとても嬉しいです。そして、1回目のレースが終わった時に、勝っても負けても、やはりもう1度このチームでレースに出たいと思っていただけるように私達は努力をします。いい信頼関係を築いて一緒に頑張りましょう。
こんにちは。いかがお過ごしですか?
さて、普段、卵子や受精卵のことを書くことが多いので、今回は精子についてお話しします。
世界中のほとんどの施設が、精液検査の基準としてWHOのマニュアルを使用していると思いますが、最近改訂され第6版が刊行されました。第5版の数値とほとんど変わりませんが、精液量1.4 ml、精子濃度1600万/ml、精子総数3900万個、運動率42% を基準とすることを提案しています。この意味を正しく理解する必要があります。
これらの数値は、妊娠を考えて12か月以内に自然妊娠したカップルの男性、約3500人について、2-7日間の禁欲期間後に行った精液検査に基づいています。3500人には、ヨーロッパ人、アメリカ人、アフリカ人、アジア人などが含まれます。上記の数値は、それぞれの項目について下位5%の人数が入る数値です。つまり、精液量が1.4 ml以下で妊娠したカップルは100人中5人ということです。他の項目、精子濃度1600万/ml、精子総数3900万個、運動率42% についても同様です。従って、この基準値(参考値)を満たしているから大丈夫とも言えませんし、たとえ基準値を下回っていても妊娠の可能性はあるということで、妊娠の可否を判断するものではありません。
ちなみに、3500人の半分(50%) の人が入る数値は、精液量3.0 ml以上、精子濃度6600万/ml以上、精子総数2億1000万個以上、運動率64%以上です。私は、これらの項目の中で、(運動)精子総数が大切だと思っています。
不妊の原因は男女両方にあることが多く、特に女性の年齢が高くなれば卵子の原因が大きくなりますから、あまり精液検査所見にこだわる必要はありません。検査はあくまで検査であり、結果を100%予測するものではありません。1年間頑張ってみて妊娠に至らなければクリニックを受診し、はっきりとした原因があればそれを治療し、なければ卵子と精子の力を総合的に判断して真の不妊原因を知る意味で、一度は体外受精をトライしてみることをお勧めします。
皆さん、こんにちは。いかがお過ごしですか?
コロナウイルスによるCovid-19 も相変わらず猛威をふるい、豪雨による災害のニュースなどを見る度に心が痛み、一日一日を無事に過ごせることをとてもありがたく感じます。
さて、今日は卵子提供についてお話しましょう。
卵子提供という治療に最初に接したのは1993年、シカゴの体外受精施設へ留学した時です。
その後、2002年に帰国して、東京HARTクリニック勤務時代には、海外へ卵子提供による治療を受けに行く患者さんの子宮内膜準備のお手伝いをしたり、JISARTでの主に姉妹間の卵子提供に関して倫理委員を2年ほど務めたりして関わってきました。
そして、約2年ほど前から卵子提供支援団体OD-NETのマッチングを通じて、匿名の卵子ドナーからの卵子提供治療を実施しています。思った以上に卵子ドナーになりたいという方がいらっしゃいますが、実際に卵子提供まで進むのは希望者の25%程度です。電話での聞き取りの段階で不適になる方を含めればさらに減って10%位です。年齢が高いことや、卵巣予備能力が低いこと、時間的に通院が困難なこと等が主な理由です。また、卵子を提供することの意味、生まれてくる子の福祉や告知のことなどを説明して、こちらからお断りする場合もあります。
一方、レシピエント(卵子をもらう方)希望者はまだ少ないですが、こちらも実際に治療へと進む方は40%位です。辞退される方の多くは、改めて自分の年齢を考えた時に、無事に出産できるだろうか、子供が成人する時まで健康でいられるだろうか、様々な不安が生じたためです。
このように、ドナー、レシピエント共に卵子提供治療へ実際に進む方は多くありません。それでいいのです。ドナー希望者も、レシピエント夫婦も子供をこの世に送り出すことの責任をきちんと考え、覚悟を決め、生まれた場合には関与した全員が幸せになれることを確認した上で治療を進めるべきですから。
大事なことなので触れておきますが、当院で卵子提供治療をお受けする条件として、妊娠した際に、妊婦健診、分娩を引き受けてくれる施設を事前に確保することとしています。卵子提供による妊娠では、夫婦間の妊娠に比べて、出産時のリスクが高くなりますから、様々な状況に対応ができる施設から妊娠許可をもらうことが必用不可欠です。レシピエントが出産を希望する施設に、私が手紙を書いて、卵子提供によって妊娠した際に受け入れてもらえるかを伺っています。幸い、これまでに問い合わせた施設は全て受け入れ可能と返事をもらっています。
もう一点、匿名ドナーですから、匿名性を維持するためにドナーとレシピエントが接点を持たないよう非常に気を使います。電話予約から、治療のスケジュール管理、費用の支払い等、ドナー、レシピエント、OD-NET の3方向への連絡を全て、看護師長の平良さん一人にしてもらっています。コーディネーターとして窓口を一つにしておくことがとても重要です。通常の夫婦間の治療と同じ費用しかいただいていませんが、実際にかかる時間と気の使い方を考えると、2倍の料金をいただいてもいいと思っています。
卵子提供による不妊治療は日本でも受け入れられつつあると感じます。今後は、LGBT(Q)の方達も治療の場に登場してくることでしょう。大切なのは、時代が変化し、人々の意識が多様化する中で、生まれてくる子供の幸せを中心に、関与する人達がきちんと考えて進み責任を持つことです。
こんにちは。
昨年の第1回目の緊急事態宣言からちょうど1年が経ちましたが、いかがお過ごしですか?コロナウィルス感染も未だ収束せず、不完全な感じの毎日ですね。
クリニックには日々いろいろなダイレクトメールやFAXによるセールスがあります。オンライン診療の案内、人材派遣、ホームページ制作の勧誘、コロナウィルス感染対策商品、サプリメントの販売などから、「グーグルに良くない書き込みがあるので消してあげます、良い書き込みを1件15,000円でしてあげます」というようなものまで。
あるいは企業から、新たな商品を開発したので販売、使用してくれるクリニックを探しているというものもあります。クリニックは企業の商品(検査)を販売するための窓口ではありません。その有効性が証明されていない商品(検査)をいかにも優れているように宣伝、実施することは、患者さんを惑わせることになり、企業やクリニックの責任でしょう。確かに、新しい検査が導入されると、わらにもすがりたい気持ちで、それを求める患者さんは多いです。
しかし、私はできるだけシンプルな治療を心がけ、最新といわれる検査や機器もほとんど導入していません。興味がないわけではなく、興味があるからこそ、それらに関する論文には目を通し、患者さんにとって本当に必要で結果を変えるのか、患者さんと生まれてくる子供がより幸せになるのかを考えて導入を判断しています。私が(遺伝学の)研究生活で学んだことは、生物が長い年月をかけて、その進化の過程で備えてきた身体機能はそう簡単には解明できないし、変えることもできないということです。しかし、逆にいえば、種の保存に関して、種を保存できるように身体は作られており、検査や技術に頼り過ぎてはいけないということです。
何か検査をしたから全てがわかるわけではありません。教科書に書いてあるような臨床経験は少ないものです。それぞれの方が皆異なる背景を持っています。自分自身の臨床経験による現場の判断の方が勝ることも多くあります。例えば、子宮内膜が薄いと着床しにくいと言われますが、薄くても胚に力があれば着床します。そのことは卵子提供による治療の方から学ばせてもらいましたし、胚は子宮環境が悪ければ子宮外妊娠(異所性妊娠)としてでも着床できる力を持っています。つまり、体外受精がうまくいくかどうかは大半が胚の力によります。そして残念ながら、胚(そのもととなる精子と卵子)を治すことはできません。ですから、良い精子と卵子が出会えるまで根気よく治療と向き合うことが必要で、患者さんがそうできるように努めています。
最近は、いろいろな検査や治療法に関する情報があふれ、患者さんからも質問されます。しかし上に書いたような理由で行っていない検査や治療について説明をするよりも、患者さんとは「不妊という状況をどのように受け止めていますか」とか、「治療とはどのように向き合っていくつもりですか」とか「もし治療がうまくいかず、夫婦間での子供を持つことをあきらめなければならないとしたらどうしますか」とか、医者として話したいことがたくさんあります。
こんにちは。だんだんに春めいてきましたね。
今回は卵子提供についてお話ししましょう。
私はこれまでに、実際の卵子提供を実施したり、海外で卵子提供を受ける方達のお手伝いをしたり、主に姉妹間での卵子提供についてJISART倫理委員を務めたりと、いろいろな形で卵子提供に関わってきました。日本では、精子提供、卵子提供がきちんとしたオープンな形で議論されてこなかったことに問題がありますが、提供精子、卵子による不妊治療自体に問題があるわけではありません。実際、これまでに関わった方達の多くは様々なことに悩みながら責任を持って決断していかれました。
卵子提供による不妊治療で最も大切なことは、生まれてくる子供が幸せになることであり、不妊で悩むご夫婦が妊娠、出産という願いをかなえることではありません。授かった子供には、どのようにして生まれてきたのか(出自)について幼いころから正直に伝え(告知)、生じうる様々な葛藤ときちんと向き合って子育てをしてく覚悟が必要です。子供が「産んでくれてありがとう」、「生まれてきて良かった」と思える人生を送れるように子育てをしていかなければいけません。アメリカでは “wrongful life” といって、「どうして私を産んだのか」「こんな人生なら産んで欲しくなかった」と子どもが親を訴えるケースもあります。
一昨年前から、卵子提供支援団体のOD-NETといろいろ話をして、卵子提供による不妊治療を準備してきました。コロナウィルスの影響で人の移動が制限されたために卵子ドナーの方達の準備が遅れましたが、ようやく今年中には実施できそうなところまできました。OD-NETは匿名(誰かがわからない形)での卵子提供です。私自身は非匿名、すなわちドナーとレシピエントが面識を持ってお互いに人となりがわかる形での提供が良いと思っていて、クリニックのHPでも卵子ドナーを募集していますが、今のところ応募がありません。
以前のブログにも書きましたが、これからは精子提供、卵子提供だけでなく、胚提供、代理懐胎、LGBTの方達の妊娠・出産などヒトの生殖行動は多様化していくと思われます。単に法律やマニュアルを作れば済む問題ではなく、それぞれの事情をきちんと理解して、個々について医学的、社会的、倫理的に妥当かを子供の福祉を最優先に考えて判断していくことが大切です。ヒトが一人この世に生まれてくるということは素晴らしいことであり、医学的に関わるのであれば、医療の原点である、人を診るということを忘れてはいけません。
今年、2021年から体外受精治療の助成金制度が拡大され、2022年には保険適応が検討されています。助成金申請について所得制限が撤廃されたことは、保険適応とほぼ同等と考えることができます。不妊で悩むカップルにとって経済的負担が軽減されることは良いことですが、懸念される点もあります。
第一に、体外受精の適応となる方の診断をより厳格にする必要があります。日本産科婦人科学会は、体外受精・胚移植「以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断されるもの、および本法を施行することが、非実施者またはその出生児に有益であると判断されるものを対象とする」と述べていますが、この診断は難しいです。左右両側の卵管がない女性は100%適応になりますが、いわゆる「原因不明」と言われる方達が上記を満たすかどうかはわかりません。実際、治療周期の合間に自然妊娠する方達が数%います。
第二に、助成金の支給方法です。拡大された助成金制度では、1回の採卵あたり30万円、6回まで、合計180万円まで助成されます。保険適応でもおそらく同程度と考えられます。しかし、施設によって治療方針は異なります。自然周期と刺激周期では、採取する卵子数が異なり、患者さん一人につき1個の卵子を扱うのと10個の卵子を扱うのでは、スタッフの仕事内容も必要な資材や機器も異なります。自然周期や低刺激周期による体外受精では採卵あたりの費用を低く抑えられるかもしれませんが、1回採卵あたりの妊娠率が低く、採卵を繰り返す身体的、経済的負担が生じます。一方、刺激周期による体外受精では、卵巣刺激注射や余剰胚の凍結があることから1回の採卵あたりの費用は高くなりますが、採卵あたりの妊娠率は高く、余剰胚が凍結できれば、新たに採卵することなく二人目を産むこともできます。刺激周期では、大半の方が3回までの採卵で出産されますから、同じ合計180万円の助成を1回60万円、3回までとする方法が適っています。あるいは、上限は同じく合計180万円とし、都度かかった費用の一定割合、例えば80%を助成するような方法も良いかもしれません。子供を一人授かるまでにかかった費用で考えれば、自然周期・低刺激周期は1回あたり低額で回数を多く、刺激周期では1回当たり高額で回数を少なく助成する方法が適当と思われます。
女性を単に子供を産む存在と見るのではなく、不妊治療というその女性にとっての大きな人生経験に思いを馳せれば、それぞれの方に合った不妊治療の選択肢があっていいのではないでしょうか。そういうシステムが煩雑というのであれば、真の意味で少子化対策として不妊治療を考えているとは言えません。
新年明けましておめでとうございます。
不安定な世情の中、おめでとうという表現が適切かどうかわかりませんが、私達自身を含めこのブログをご覧頂いている方々が、無事新年を迎えられていることをありがたいと思います。
さて、皆さんもご存じのように、本日、2021年1月1日から特定不妊治療の助成金制度が変更になる予定です。予定というのは、厚生労働省の通達にはそうありますが、本日1月1日の時点ではそれぞれの自治体のホームページに詳細がまだ発表されていないからです。事務上の遅れだとは思いますが、皆さん各自、それぞれの関連自治体にご確認いただくようお願い致します。
助成金拡大の先には、健康保険の適用が準備されているようですが、患者さんからよく不妊治療の費用はどのように決めているのかと聞かれます。私は開院する際に、私一人で診られる1日の外来患者さん数を15人、1カ月の採卵人数を20人として、それに必要なスペース、スタッフの数、培養設備などを計算して決めました。さらに、スタッフの教育や、年数経過後の設備の補修・改修費の積み立て、人件費の上昇、など様々な出費を考慮に入れています。当院では、通院回数や、採血など諸検査は最小限にとどめていますので、少額でも数が多いと高額になるような隠れた費用はほとんどありません。
一人一人の患者さんときちんと話をするためには、上記の患者さん数にとどめることが必要です。従って、治療費としては高めかもしれませんが、クリニックの掲げた理念に基づいた診療を行うに見合ったものとご理解いただければ幸いです。
費用は、確かに治療を継続できるかどうか、とても重要な要素です。しかし、体外受精費用が無料の北欧を中心とした研究では昔から、治療が思うようにすすまない精神的ストレスによって採卵3回までに多くの患者さんが治療を中止、終了すると報告しています。今後保険診療になって費用が一律になればもちろんですが、一律でなかったとしても、一年間あるいは3回の採卵と決めた治療の期間、安心して通院できる、信頼のおける施設を選んでください。
皆さん、こんにちは。お元気ですか。
2020年もあと3週間ほどになりました。今年は、コロナウィルス感染症の影響で、治療の延期をお願いした時期があり、大変ご迷惑をおかけしました。
それでも、今年も昨年と同程度、約150周期の採卵と、同じく約150周期の凍結胚移植を、事故なく安全に行うことができました。幸い、患者さんにもスタッフにもコロナウィルスに感染した人はなく、継続して診療を行えたことは皆さんの協力のおかげです。改めて感謝致します。引き続き、待合室が密にならないよう予約の取り方に配慮し、消毒を徹底していきます。
いつも同じことを書いて恐縮ですが、当院ではできるだけシンプルに、基本に忠実な刺激周期による体外受精治療を行っています。古いと思われるかもしれませんが、その治療方針で大半の方が妊娠に至っています。エビデンスのない検査を行ってその結果の説明に時間を使うより、患者さんが不妊という状況にどう悩み苦しんでいるのかを聞き、人としてきちんと向き合いたいと思っています。妊娠することだけが最終ゴールではありません。治療過程そのものがその後の出産、子育て、引いてはその方の人生にとって意味のあるものであって欲しいと思っています。
新たな取り組みとして、今年は卵子提供の準備をしてきました。国内の卵子提供支援団体が募集している匿名卵子ドナーと、卵子提供による治療を希望されるレシピエント夫婦間の治療です。私自身は、匿名よりはお互いに人がわかる方がいいと思っているので、当クリニックとして非匿名卵子ドナーを募集していますが、今のところ応募がありません。国も法整備を進めているようで結構ですが、生まれてくる子供の福祉を守るためには法だけでは不十分で、個々のケースについて医療従事者がドナーとレシピエントの人間性を良く知り、ドナーとレシピエントが健全な関係を確立した上で、治療、子育てができるよう親身に関わることが重要です。
コロナウィルスがきっかけで誰もが自身の生活の見直しを余儀なくされています。子供を持つことの意味を改めて考えてみた方も多いと思います。不妊治療に対する助成金の拡大や保険診療化も進められており、不妊治療の在り方も変わって行くことでしょう。しかし、私はこれまで通り、一人一人の方と時間をかけてきちんと関わり納得のいく治療を提供し続けたいと思います(そのためにはやはり自費診療が必要でしょうね)。
皆さん、こんにちは。毎日暑い日が続きますね。
前回のブログで卵子提供に触れましたが、もう少しお話しましょう。
誰かに卵子をあげる人を提供者(donor、ドナー)といい、卵子をもらう人を被提供者(recipient、レシピエント)といいます。卵子提供による不妊治療において、金銭の授受を伴うものを有償、伴わないものを無償と呼びます。卵子提供者の身元を隠して提供する場合、匿名ドナーといい、身元を明かす場合を非匿名ドナーと言います。
最近、あるエージェントを通して、匿名、無償で、卵子ドナーになりたい日本人の方々と接する機会がありました。なぜ無償で卵子ドナーになりたいのかと尋ねたところ、多くの方が「自分は妊娠、出産の予定がないので、卵子提供という形で自身のDNAを残したい」と回答されました。無償での提供の場合、altruistic(利他的、愛他的)という英語をあてることが多いのですが、この回答は純粋な altruism ではないですね。自身のDNAを残したいというところに利己が存在しています。
理想を言えば、妊娠、出産経験のある女性が、自分の妊娠、出産、子育てを通して、子供を産み育てることがどれだけ大変なことか、でもその大変さに見合うだけの人生経験を与えてくれる、そのような経験を心から望む夫婦のために何の見返りもなく卵子を提供してもいい、という場合をaltruismと言うのでしょう。
匿名性について言えば、匿名、非匿名はドナー、レシピエント共にそれぞれの希望により、どちらが良いとは言えません。しかし、レシピエントにしてみれば、ドナーの身元は伏せられていても(匿名)、身長や体格、趣味(運動が好きか、静かに本を読むことが好きか)、どんな仕事をしているのかなどの情報は欲しいのではないでしょうか。今は、卵子提供によって生まれてくる子供達には、卵子提供によって生まれたことを告げる(出自の告知といいます)のが通常ですから、必要な情報だと思います。
また、ドナーが匿名でいたいと思い、現在の法律でその権利が守られているとしても、10年20年後にもその法律が有効であるとは限りません。子が出自を知る権利を主張し、ドナーの身元を明かすように申し出て、その権利が法的に認められるようになれば、ドナーの匿名性は守られないでしょう。
卵子提供は様々な課題を含んでいます。国ごとに文化も違いますから、いろいろなやり方があると思います。しかし、すべては生まれてくる子供の幸せが最優先です。日本で卵子提供が根付くかどうか、まずドナーになりたい人がどのくらいいるのか、そしてどのような動機でドナーになりたいのか、把握したいと思っています。そして、常に10-20人のドナー希望者が確保できるようであれば、卵子提供を治療の一つとして行うことができるのではないでしょうか。
皆さん、いかがお過ごしですか?
ここ数年、毎年、「最大級の警戒を」とか「経験したことのない」とか叫ばれながら、未然に防ぐことができずに繰り返される水害には心が痛みます。また、今年はコロナウィルス感染症によって不自由な生活を余儀なくされ、さらに地震の可能性も考えると、国から言われなくても、私たち自らが「新たな生活様式」を考えるべきなのだと思います。
「新たな生活様式」を考えるのであれば、その社会生活の中で個々の事柄について考えてもいいでしょう。私の場合は、不妊治療、少子化、子育て、子供の福祉、などの側面から日々思うことを述べてみます。
日本の少子化は数年前に予測されていた以上に速く進んでいます。晩婚化や生涯未婚率の増加によって出産する女性の割合が減少していることに加えて、母集団である、いわゆる生殖年齢にある女性の人口自体が減少し始めています。さらに不妊で悩む女性にとって仕事と治療の両立は大きな問題であり、治療が長引く場合には、本意ではなく治療をあきらめざるをえない方も多いことでしょう。
本気で少子化を改善することを考えるなら、「新たな家族様式」を検討する時期ではないでしょうか。妊娠したい、出産したい、子供を心から愛して育ててみたいと思う夫婦に対して、その思いが叶わないなら、いろいろな選択肢を提供する時期に来たのではないでしょうか。精子に原因があるなら精子提供を、卵子に問題があるなら卵子提供を、子宮に問題があるなら代理懐胎を選択肢とするべきでしょう。あるいは、不妊治療そのものをやめて(特別)養子、里親を選択する方もいるでしょう。夫婦二人での子育てが大変なら、様々な人が様々な形で子育てに参加してみんなで育ててはどうでしょうか。
さらに、レズビアンやゲイの人たちの婚姻が法的に認められるのであれば、その方々が子供を持ちたいと思うのは自然であり、私たち生殖医療従事者は、その気持ちにも応える準備をすべきでしょう。
まずはいろいろな方々の思いを聞くことから始めて、自分にできることを誠実に実行していきたいと思います。不妊治療が辛いだけの思い出にならず、その過程、経験が、そのカップルにとって何かしら人生の糧になり、子供を授かったのであれば覚悟を持って子育てをしていただけるように手助けできたらいいですね。