こんにちは。皆さん、いかがお過ごしですか。
6月に入って街や通りには人が増えてきました。お店も再開したり、営業時間が延びたり、少しずつ活気が戻りつつあります。早く、以前のように仕事ができる日々が戻って欲しいですね。
さて、皆さんはクリニックを選ぶ際、どのようなことを基準に考えますか?妊娠率、診療時間(仕事との両立)、場所、費用が大半ではないでしょうか。不妊治療(ART)施設の場合は個人クリニックが多く、ホームページにはたいてい院長の写真やプロフィールがありますから、人を見てという方もいらっしゃることでしょう。来院してみて、思った通りという方もいれば、期待はずれという方もいらっしゃると思います。
しかし、通院中一番多く時間を共にするのは看護師です。当院では、平良(たいら)看護師長が全ての患者さんと関わります。採血、注射指導、採卵・胚移植補助などの技術が高いのはもちろんですが、人として患者さん一人一人と丁寧に接しています。ですから、電話口で「〇〇です」と言えば、「あー、〇〇さん、その後△△はどうですか?」と具体的な返事が返ってきます。看護部は患者さんを中心に、受付事務、医師、培養部の全体が見渡せるポジションで、コーディネーターの役割を果たします。平良看護師長は患者さんそれぞれの事情や性格や体調に思いを馳せて、できる限りの配慮をしてくれます。医者の私が気付かない部分を補ってくれる非常に頼もしい存在です。
もう少し話しておくと、平良看護師長は唯一6年前の開業からずっとクリニックを支えてくれているスタッフです。6年前、看護師歴14年、真剣に不妊治療を学びたいと応募してきました。約9年の精神科での勤務経験があり、人の心の複雑さを知った経験は不妊治療を学ぶ上できっと大きな糧になるだろうと思い、当院に来てもらいました。6年経った今、その判断は正しかったようです。最近は心に悩みを抱えた方が増えているように思えます。現代を生きることはそれだけ大変なことなのでしょう。妊娠、出産、子育てがしっかりと地に足がついたものとなるよう、私たちは関わっていきたいと思っています。
今日は、皆さんからお預かりしている大切な凍結受精卵(凍結胚)についてお話しします。
凍結受精卵の保存期間は施設ごとに任意に決められています。胚移植後、妊娠が成立してから分娩までが9か月、出産後1年間授乳するとして、凍結から2年程度を保存期限とし、その後は1年単位で延長費用をいただくことが多いのではないでしょうか。
当院では、期限が来てもクリニックから延長を希望するかどうかはお聞きしていません。その代り、1年の余裕を持って、凍結から3年間を保存期限としています。これは私の経験に基づきますが、保存期限が近づいた際に「保存を延長しますか」と聞かれた場合、もう出産を考えていなくても心情的に「希望しない(廃棄して欲しい)」と返信できない方が少なからずいらっしゃるからです。凍結胚の廃棄処分に関してはあまり表面に出てきませんが、不妊治療がうまくいった後に精神的な負担を与えうるとしてずっと以前から指摘されている問題です。
では、当院での廃棄方法の実際をお話します。凍結受精卵には、赤ちゃんになる力を持った受精卵もあれば、力のない受精卵も含まれます。しかし、不妊で悩むご夫婦が子供を授かるために一緒に頑張った同志であることには変わりません。ですから、廃棄する際には、凍結胚移植を行う胚の場合と同じ方法で丁寧に融解します。通常、胚移植をする場合には、融解後に回復をサポートする培養液で培養するのですが、廃棄する胚については積極的にサポートせずに1日置きます。翌日、発育が停止していることを確認した後、その他の発育停止胚と同じように廃棄します。他にも方法があるでしょうが、きちんと礼を尽くすという意味で、このようにしています。
「この方法でも忍びない」、「もう妊娠は考えていないが、自分の体に戻して区切りをつけたい」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。そのような方には、妊娠しない環境の子宮内または腟内に受精卵を戻す、compassionate transfer という方法があります。ドライに考えれば医学的に意味のないことでしょうが、不妊治療は精神面で奥深いところがあり、それぞれの方がどのように区切りをつけるか、あるいは折り合いをつけて生きていくか、私たち医療従事者がきちんと関わる大切なことだと思います。
凍結受精卵について相談したいことがあれば、遠慮せずにぜひご来院下さい。
皆さん、こんにちは。少しずつですが、街に人や車が増えてきましたね。皆さんの生活が早く元通りに、あるいは以前よりもより幸せなものになることを心からお祈りします。
さて、2カ月ほど前に書いたHART Newsletter の依頼原稿が印刷されたようなので、以下に転載しておきます。お時間のある時にお読みください。
この原稿が印刷される頃には、コロナウィルスによる新型肺炎も少しは収まっているでしょうか。開業してもうすぐ6年になりますが、多くの方々に支えられて今日まできました。改めてお礼申し上げます。この6年間、不妊で悩むご夫婦を全人的に診るよう心がけてきました。ARTではとかく技術先行なところがありますが、治療経験がご夫婦にとっても、生まれてくる子供にとっても辛いものとならないように努力しています。本来、不妊治療とは、「愛するパートナーとの間に子供を持ちたいと切に願う夫婦の卵子と精子が出会えるようにして、受精卵が子宮に着床できる環境を作ること」だと思っています。とてもシンプルなはずなのですが、近年様々な”add-on”(付加的な検査・治療)が現れ、患者さんの多くはその情報に困惑しているのではないでしょうか。これらadd-onのいずれもまだその有効性は証明されていません。
現在、日本で最も熱心に行われていることは受精卵の染色体検査(PGT-A)ですが、これもまだ、妊娠率(出産率)の向上や流産率の減少に貢献するか結論が出ていません。おそらく胚から細胞を採取すること(胚生検)の胚への侵襲によるのでしょうが、女性年齢が37歳位までなら、PGT-Aを実施しない方が妊娠率が高いという報告も散見されます。妊娠率も上がらず、流産率も減らないとなると、PGT-Aが確実にできることは、出産にいたる染色体異常、すなわち13番、18番、および21番トリソミーを診断することになります。これは、妊娠初期に母体採血で行う非侵襲的出生前診断(NIPT)と同じです。どんどん検査が増えて、どれもしないといけないような雰囲気になると、治療も息苦しくなりますね。さらに、妊娠に備えて身体を整えましょうというプレコンセプションケア、病気の原因の一つは母親の胎内環境にあると考えるBarker仮説など、妊娠、出産を取り巻く状況は女性にとって窮屈なものになりつつあります。もっとシンプルで息苦しくない不妊治療に戻ることはもうできないのでしょうか?
皆さん、こんにちは。
相変わらず、コロナウィルス肺炎で落ち着きませんね。身体的にも精神的にもバランスを崩さないように頑張っていらっしゃることでしょう。
海外では、不妊治療再開へ向けてのガイドラインが作成されていますので、日本でもそれらを参考にして生殖医学会からまた何かしらの声明が発表されるのではないでしょうか?歴史を振り返ってみると、戦争や疫病、飢饉などで人口が大きく減少した後には、出産数が増えて人口が戻ることが多かったようですが、今回はどうでしょうか?経済と人々の生活の安定回復が達せられないと、子供を持つこともままならない状況が続く可能性があります。
今回の件では、国は必ずしも国民の生活を守ってくれるわけでないことがわかりました。私たち国民もそれぞれ環境が異なる中で考えも異なり、国民全員が一致団結して日々を送ることが難しいのもわかりました。しかし、それぞれがきちんと責任を持って自分の考えで行動するのであれば、国から押し付けられた方針に全員が従うよりは民主主義的には健全でしょう。いろいろな価値観をオープンに話し合って、お互いに尊重することが大切です。私は、不妊治療において、卵子提供、代理母、ゲイカップル、レズビアンカップル、など多様な選択肢を考えてきましたが、もう少し先のことかなと思っていました。しかし、世界がこんなに脆弱で、昨日までの当たり前な生活がほんの短期間で失われたり変わってしまうのであれば、先送りにしない方がよさそうです。今年はまず卵子提供から始めようと思っています。
生殖医学会の声明発表から2週間、緊急事態宣言から1週間になりますが、皆さんいかがお過ごしですか?自宅勤務の方もいらっしゃれば、職種上通勤している方もいらっしゃるでしょう。
休業要請をいうのは簡単ですが、実際それぞれに生活がありますから、実施を徹底するのは難しいでしょうね。政治家、官僚を見ていると一般国民の日々の生活の切実さを理解しているとは思えません。公僕として国民のために自らの命をかけて仕事をしている人がどれだけいるでしょうか。「大切な人の命を守るために」と言いますが、この状況が続けば、人々はコロナウィルスよりも、経済的に命を失う人の方が多くなるかもしれません。
日本の場合、初期に外国人の入国を制限しなかったこと、オリンピックの開催を優先したために、ウィルスの封じ込め時期を逸しました。しかし、理由はわかりませんが、日本では海外に見るような死亡率には至っていません。8割の接触を断つように言われていますが、今となっては4割と差がなさそうにも思えます。不妊治療専門医の間でも全員の意見が一致することはありませんから、感染症専門医の意見も異なり正解はないのではないでしょうか。
私にできること。例えば、治療費を上手くいった場合にのみいいただく、いわゆる成功報酬制はどうか。これは昔からの考えですが、そもそも不妊治療の成功、失敗とは何でしょうか?妊娠判定が陽性に出ること、子宮内に胎嚢が見えること、胎芽に心拍が確認できることでしょうか?きりがありません。流産しないこと、出産すること、奇形がないこと。でも、3歳になって発達が遅い、思春期になって手に負えないほどの反抗をする、警察のお世話になる、などいくらでも予定通りではないことが起こります。妊娠、出産、子育てとはそういうものではないでしょうか。だから、成功も失敗もありません。今できることに最善を尽くす。知識と技術と心が伴っていれば、結果がどうであれ、それが不妊治療だと思いますから、成功報酬という考えは当てはまりませんね。
皆さん、こんにちは。前回のブログ(2020年3月25日参照)に、一緒に頑張りましょうと書いたばかりですが、4月1日に日本生殖医学会から不妊治療を延期するよう要望する声明文が出されました(日本生殖医学会HP参照)。
3月25日のブログに書いたように、緊急度の低い治療は後回しにして、コロナウィルス治療に人的物的資源を集中しようという思いと、妊婦・胎児を守ろうとする思いからだとは思いますが、突然のことで不妊治療の現場には混乱が生じています。実際、夫婦でよく相談する時間もないまま、せっかく準備してきた凍結胚の移植をキャンセルした(する)方がいらっしゃいます。その失望感や悲しみが伝わるでしょうか?
今回のコロナウィルス肺炎のような状況下で、各組織や団体がそれぞれに要請や宣言や声明を出すことは混乱を招きます。必要なのは、コロナウィルスによる疫病が収束した後にどのような国を想定しているのかということです。国のリーダーはそのビジョンを明確に示す必要があります。70代80代の高齢者の救命に努力した結果高齢者人口は維持されたけれども、医療スタッフが疲弊して他領域の医療が機能しなくなる。産婦人科領域でいえば、今回のように妊娠を先送りすることで出生率がさらに低下し、年間出生数が60万人程度になるかもしれません。そのような極端な少子高齢化社会では、わざわざ妊娠を延期した人たちが幸せになれる保証はありません。
日本生殖医学会が声明文を出すのであれば、日本において妊婦がコロナウィルスに感染する可能性が何%なのか、肺炎が重症化する可能性が何%なのか、胎児に感染して後遺症を残す可能性が何%なのか、何かに基づいた具体的な数字を示すべきでしょう。そうでなければ、治療を中止あるいは延期すべきか、進むべきかの判断はとても難しいです。もともと正解がない不妊治療において、私たち医療従事者と患者さんはまた一つ答えのない選択肢を与えられました。4月1日の夜から、多くの患者さんと話をしてきましたが、この状況はしばらく続きそうです。
こんにちは。皆さん、頑張っていますか?
新型コロナウィルスの感染は更に広がっているようで、相変わらず落ち着かないですね。不要不急な外出を控えるとか、人が集まるところに行かないとか、確かにそうですが、現代社会は人々が複雑に関わり合ってそれぞれの生活があり、それぞれの事情を抱えて、様々な思いで生きています。皆が家から一歩も出ずに何週間も生活することは不可能です。一人一人が、置かれた環境の中で、自らが出来る範囲の衛生管理をして、情報に惑わされずに生きていくしかありません。
緊急性の低い診療領域の人的、物質的資源をコロナウィルス肺炎の患者さんの治療に振り替えようとする考えがあります。不妊治療も緊急性が低い分野の一つに入るようです。
不妊治療を今月でなくても、3か月先に伸ばすことは可能です。私も治療を延期される方が多いかと思いましたが、実際ほとんどの方が予定通りに治療されていますし、中には通勤が減り会社を休んだり早退しなくていいこの時期に治療を進めたいという方もいらっしゃいます。
それだけ不妊で悩む方が妊娠を望む気持ちは強いのです。実際、いい卵子が育つ周期は今かもしれません。肺炎で失われる命を守ることは大切ですが、生まれてくる命を守る治療も大切にして欲しい。生まれた子供といられる時間が少しでも長くなるように、私にできる精一杯のことをさせていただきます。
皆さん、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか?コロナウィルス感染およびそれによる肺炎が拡大して、世の中が落ち着かない状況ですが、当院にご通院いただいている方々には心からお礼申し上げます。スタッフ一同感染源にならないよう日々気をつけるのはもちろんですが、患者さんにも発熱等の症状があった場合には(コロナウィルスやインフルエンザと診断されていなくても)、2週間は通院をご遠慮いただくなどご協力いただいています。
原発事故による放射能漏れの際もそうでしたが、目に見えない脅威に対してはとても不安になります。さらに、国からの情報が小出しで断片的なため見通しが立たず、私たち一般市民は正直どうするのが一番よいのかわかりません。それぞれが生きていくために、それぞれの事情に応じて自分の判断で動くしかありませんが、結果は自己責任、運命ということでしょうか?
少子化が止まらず、年間出生数が86万人程度まで低下していますが、安心して子供を持ちたい、育てたいと思える社会からどんどん遠ざかっているのかもしれません。批判ばかりしていても始まりませんから、私にできることは何かと日々自問しています。不妊治療、生殖医療に関わる一医師の立場では大きな規模のことはできません。やはり、目の前の患者さん一人一人ときちんと関わって、不妊治療体験の辛さが少しでも軽くなるように努力を重ねたいと思います。治療を通して関わった様々なご夫婦と生まれた子供達が将来、日本が素晴らしい国になるように力を発揮してくれることを祈って。
毎日寒い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
巷では新型肺炎やインフルエンザが猛威をふるっており、深刻な事態に陥っております。
マスクや手指用の消毒ジェル等も入手困難となっていますが、まずは基本のうがい・手洗いの励行を徹底し、感染防止に努めたいところです。
さて前回のブログにも書かせて頂きましたが、横浜HARTセミナーを再開したいと思います。
今年は毎週木曜日 18:30~19:30 に実施致します。
内容や詳細につきましてはHPに後日掲載しますが、体外受精をご検討しており関心がある方を対象に行います。
体外受精ってどんな事をするのか、期間はどのくらいなのか等、初歩的な事を知りたい方も是非聞いて頂きたいと思っています。
当院に通院中の方以外もご参加いただけます。
当院での初診〜治療までの流れ、費用等について詳しくご説明致しますが質疑応答の時間も設けていますので、是非この機会にご不明点をお聞きになって下さい。
当院のセミナーは参加されるご夫婦が質問しやすいように、また私達からご夫婦のお顔が見えるよう毎回5組限定とさせて頂いています。
初めて参加される方にとって驚かれるかとは思いますが、小規模ながらの良さもあります。
初回は2/13なっておりますので、どうぞご参加下さい。
看護部 平良
新しい年が明けて、早1ヶ月が経ちました。
ご通院の皆さまには、昨年も当院の診療にご理解、ご協力頂きまして大変ありがとうございました。
改めて感謝申し上げます。
スタッフ一同も、また新たな気持ちで精進して参りたいと思います。
今年はセミナーの内容をリニューアルし春頃から再開する予定です。
これまでは、体外受精の歴史から現代の治療法、年代別妊娠率の統計等をお話しさせて頂きました。
また、実際の体外受精の治療周期に入った場合の流れを動画で説明していました。
患者さん個々によって、知りたい情報や聞きたい事などが異なりますので、今後のセミナーでは今までの内容を再検討し、よりシンプルで分かりやすい内容の改善を検討しております。
その場でご質問もお受けいたします。
本来の体外受精の治療の在り方を理解し、その上で治療への取り組み方を考えていく事が当院のセミナーの目的です。
当院の治療方針を知って頂き、ご理解下さる方に通院して頂きたいと考えています。
治療を開始後も、お一人おひとりのケースと向き合って一緒に頑張らせて頂ければと思いますので、不安なことやご不明な点は参加された際に是非お聞き下さい。
セミナーは当院のご通院中の方、これから病院をお探しの方、どなたでも参加可能となっておりますので、ご興味のある方は是非ご参加下さい。
看護部 平良